今季限りで退任するリカルド ロドリゲス監督と過ごした2年間は濃密なものだった。
大久保智明にとっては、プロで初めて指導を受けた監督。大卒1年目から出場機会を与えられ、早々とJ1デビューを飾ることもできた。
2021年3月17日の北海道コンサドーレ札幌戦で初出場を果たすと、同年はリーグ戦18試合(先発6試合)に出場。そして、プロ2年目は、スペイン人指揮官のもとでさらに飛躍した。
今年の6月以降は主にスタメンとして名を連ねる機会が増え、主力のひとりとしてリーグ戦23試合(先発13試合)に出場。得点数こそ1ゴールにとどまったが、会場を沸かせる華麗なドリブルで好機をつくり、5アシストを記録した。
「プロ1年目から試合に使ってくれたことには感謝しています。貴重な経験をさせてもらいました」
ヨーロッパで指導キャリアをスタートした戦術家から学んだことは数知れない。東京ヴェルディの下部組織、中央大学時代には知り得なかったことも多かった。
「攻守両面においてのポジショニングは、とても勉強になりました。攻撃面では数的優位のつくり方など、守る側が嫌がる場所はどこなのかと。守備面でも立ち位置は細かく指導してもらい、自分のものになっています。守備強度の向上を求められていたので、そこも僕自身、成長したところだと思います」
リカルド ロドリゲス監督からはピッチでハードワークを促されたものの、時間外の“働き過ぎ”だけは咎められた。FUJI FILM SUPER CUP 2022の前に自主練習で負傷したことがあったのだ。
「ベストコンディションで試合に臨んでほしいから、全体練習の後は止めてほしいと。すごく勝負にこだわる監督でした。今季は1シーズンを通して、練習のなかでやり切ることを意識してきました」
右サイドからのカットインが得意なレフティーは、2年間での成長を実感している。
「中学生の頃からずっと右サイドでばかりプレーしてきたのですが、リカルド監督は新たな持ち場を与えてくれました。プロ1年目は主に左サイドでしたし、2年目はもともとの右サイド、そしてトップ下、FWでもプレーしました。リカルド監督のおかげで、ユーティリティー性が身につきました」
大久保の持ち味も最大限に生かしてくれた。いつも言われていたことは「1対1になれば、仕掛けろ」。大原の練習場ではリカルド ロドリゲス監督から親しみを込めた英語の愛称で呼ばれていた。
『ラビット(うさぎ)』
あだ名の由来は、想像がつくだろう。
「僕の動きがぴょんぴょんしているから、と」
うさぎ本来の動きは、かわいい擬態語では表現しにくい。実はダッシュ力に優れ、瞬発力も抜群。むしろ、スペインのサッカー界では、身のこなしが軽く、動き素早いFW、MFの褒め言葉のひとつとして使用されることもある。
かつてバルセロナなどで活躍したアルゼンチン代表FWハビエル サビオラが『エル・コネホ(うさぎ)』の異名を取ったことはつとに有名である。
浦和では大久保に分かるように『ラビット』と英語で伝えたものの、スペイン語『コネホ』の愛称はリカルド ロドリゲス監督が残した置き土産かもしれない。
(取材・文/杉園昌之)
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