5月18日に行われたJ1リーグ第11節の横浜F・マリノス戦。前半のうちに3点ビハインドを負う絶体絶命のピンチを救ったのはキャスパー ユンカーだったが、3点目を生み出した大久保智明のドリブル突破も見逃せない。
69分からピッチに立つと89分、松尾佑介のスローインを受け、すかさず相手DFふたりに対してドリブルを仕掛けていく。このシーン、足の裏を使ってフェイントを成功させていることがわかる。
そこから迷いなく切れ込むと、寄せてきたDFをもうひとりかわし、右足で力強く蹴り込んだ。
シュートだったのか、狙いどおりのクロスだったのか、それは本人のみぞ知る事実。いずれにしてもシュート性のボールをユンカーがワンタッチで角度を変え、ネットを揺らした。
「小さいスペースから抜け出していくプレーは自分の強みです」
大久保は以前からそう語っているが、まさに自身のストロングポイントが遺憾なく発揮された場面だった。
今季のリーグ戦13試合目にしてようやく輝きを放ったが、本来ならば、もっと早い段階で活躍していてもおかしくなかった。
プロ2年目となる今シーズン、1月から2月にかけて行われた沖縄でのトレーニングキャンプで、主力組に入ることが少なくなかったからだ。
きっと飛躍の1年になる――。
そう思われたのもつかの間、大原サッカー場に戻ってきてから負傷してしまう。今シーズンの初スタメンは4月18日に行われたAFCチャンピオンズリーグの山東泰山戦まで待たなければならなかった。
だが、この横浜FM戦での活躍で、流れが大きく変わるかもしれない。
振り返ってみれば、ベンチ外が続いたルーキーイヤーの昨シーズンに大きな転機となったのが、ユンカーへのアシストだった。
21年6月9日の天皇杯・カターレ富山戦。0-0で迎えた80分、公式戦初スタメンだった大久保が左サイドを突破してユンカーにクロスを届けると、決勝ゴールが生まれた。
「あそこから戦力として見てもらえるようになり、メンバーにも入れるようになりました。あの試合はターニングポイントだったと思います」
大久保の定位置であるサイドのポジションは関根貴大、松尾、松崎快といった本職のみならず、小泉佳穂や明本考浩もこなす激戦区である。
そこにダヴィド モーベルグ、アレックス シャルクまで加わったため、ポジション争いは激化の一途を辿っている。だが、レベルの高い競争は望むところだと大久保は意気込む。
「ポジション争いは昨年からありましたし、学びでしかないと思っています。トレーニングから盗めるものは盗んでいきたいし、自分も違った良さを出せると思っています」
もともと日記とサッカーノートを毎日書き続けている努力家。とりわけサッカーノートには、守備の仕方や他の選手からのアドバイス、毎日のトレーニング映像を見返して気づいたこと、トレーニング時のフォーメーションなどを記したりして復習を怠らない。
シーズンオフには陸上の十種競技の池田大介と一緒にトレーニングをして、フィジカルに関する知識を増やした。
「無駄な時間を過ごしたくないという意識があります。何かひとつでも知識を身につけられたらと思っています」
チームは現在6試合連続ドロー中。決して悪い内容ではないが、勝ち切ることができていない。
今のレッズに必要なのは、こじ開ける力。大久保自身にもゴールが生まれ、チームに白星をもたらすことができれば、左利きのドリブラーにとって飛躍のシーズンとなるはずだ。
(取材・文/飯尾篤史)
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