昨年、大学No.1CBと称された中野就斗の今のポジション取りは、DFというよりもFWのようだ。
志知孝明(赤ビブス)との熱いバトル。6月、中野も志知もレギュラーを確保していなかったが、この時のトレーニングが今の2人の活躍を呼び込んだ(6月17日撮影)
広島のシステムでの3-4-2-1におけるアウトサイドは、攻撃時には最前線、守備時は最終ライン。攻守に高いレベルが求められるが、大学までCBでプレーしていた中野にとって、最前線は未知の世界。当初はどうしても攻撃時の位置が低く、プレーにも余裕がなかった。
だが、今は違う。
「ウチの守備は引かないで前に出ること」と広島のコンセプトを理解した中野は、位置取りとプレー内容を改善。「今は自信をもって、高い位置がとれています」と言い切った。
キックオフと同時にハイプレスを敢行し、いきなり決定的シーンをつくった柏戦(8月26日・上記動画0:22〜)では、前半だけで3本のシュート。42分、マルコス・ジュニオールのクロスを左足で合わせたシュートは犬飼智也の大ファインプレーに防がれたが、超決定的だった。
彼のストロングであるフィジカルの強さやスピードは、個人で行う地味なトレーニングの積み重ねから生まれる(8月30日撮影)
中野は試合後、「決めないといけない」と悔しさを露わに。だが「ゴール近くまで何度も行けることが凄い。続けていれば得点はいずれ、とれる」と塩谷司は称賛していた。
9月2日、鳥栖戦。彼はまたしてもキックオフから、鳥栖の最終ラインに強烈なプレッシャーをかける(下記動画の0:21〜)。
アニマルと言っていい激しい圧力で相手のミスを誘い、ピエロス・ソティリウの先制点に繋げた。さらに79分、彼の左足から繰り出された美しいクロスは、ゴールを決めたドウグラス・ヴィエイラ(ドグ)が「パーフェクト」と称えたほどのクオリティ。ルーキーのプロ初アシストは、広島の勝利を確実なものにした。
「アシストのシーンは『ここなら点になる』というポイントに入れたんですけど、ドグが決めてくれてよかった(笑)」
日々のボール回しをしっかりとやりきることで、中野の技術や戦術眼も一歩ずつ成長している(9月1日撮影)
毎熊晟矢の抜擢など、日本代表のサイドバックは今、激しい競争の真っ只中。「広島で結果を出せば、自分にもチャンスはある」と若者は意気込んだ。
「その前に、まずゴールを決めたい。家族も、サポーターも、みんなが待ってくれているので」
9月16日の首位・神戸戦で2試合連続アシストを決めた(上記動画1:01〜)中野就斗の情熱は、もっと大きな花を咲かせる。
中野就斗(なかの・しゅうと)
2000年6月27日生まれ。東京都出身。桐生第一高から桐蔭横浜大に進学し、「大学ナンバーワンCB」という高い評価を受けて今季、広島に加入。抜群の対人能力、豊富な運動量、身体の強さを利した推進力が認められ、右サイドで開幕スタメンに抜擢。4月19日の対神戸戦(ルヴァンカップ)では決勝点となるプロ初得点を決めた。一時期はベンチスタートも続いたが、8月5日の湘南戦から先発に定着。「あとはJ1初ゴール」と繰り返す彼の言葉は、CBをやってきた選手とは思えない得点への意欲に満ちている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】