【サンフレッチェ】約2ヶ月ぶりの勝利を呼び込んだ、塩谷司の凄み
「シオとマコがいない」
これは6月から約2ヶ月間、ほとんど勝利なく過ごすなかでミヒャエル・スキッベ監督がふと漏らした本音だった。マコは満田誠、そしてシオは塩谷司である。
塩谷司がトレーニングに合流したその週、スキッベ監督が笑顔を見せる回数が増えたことは確かだ(6月22日撮影)
塩谷は5月20日の名古屋戦で右肩を傷め、骨にも異常が見つかっていた。右腕をつってウオーミングする彼の姿は痛々しく、チーム練習に復帰したのは6月下旬になってから。その時も塩谷自身はまだ肩に不安を抱えており「実戦は難しい」と語っていた。
さらに7月8日の鹿島戦を前に体調を壊し、約1週間の離脱を余儀なくされた。「体調万全であれば、シオは先発」と指揮官が2日前に明言していただけに、不運の連鎖が恨めしくなった。
合流直後はフリーマンでのトレーニングが多かったが、それでもサッカーができる喜びに塩谷は包まれていた(6月22日撮影)
監督が塩谷を「必要不可欠」としている理由にはもちろん守備の強さや経験の豊かさもあるが、最大の理由は彼の持つ攻撃力である。
太さ44センチという驚愕のふくらはぎを持つ両足から繰り出す破壊的なシュートで今季は既に2得点。パスも高質で後方から試合を創れる人材としては、J最高レベルといっていい。
その本領が発揮されたのは、8月13日の浦和戦だ。
右CBの位置でボールを受けた塩谷のスルーパスは、コース・スピード・タイミング、全てが完璧。ゴールを決めた加藤陸次樹が「シオくんなら絶対に出してくれる」と信じ、指揮官が「パーフェクト」と絶賛したこのパスは、得点力不足に苦しんでいた広島の復活を知らせる狼煙となった(下記動画5:26〜)。
8月26日の柏戦、塩谷の前方でプレーしていた中野就斗が再三の決定機を外した。だがJ1通算20得点(CBとしては歴代10位)の記録を誇る男は「中野はよくやっている」と語った。
「本来はCBの選手で慣れない右WBをやっているなかで、経験を積むごとに非常に良くなっている。彼の持つ能力は開花されつつあるし、そのうち点は入る」
国士舘大・水戸の後輩でもある住吉ジェラニレショーンは、塩谷が特に期待をかけている若手の1人。塩谷司という大きすぎる壁を乗り越えた時、住吉はきっと凄いCBになれる(8月18日撮影)
かつて「若大将」と呼ばれた塩谷司は、今や堂々たるリーダーシップを発揮する「大将」に成長。浦和戦で約3ヶ月ぶりにピッチに戻ってきた「マコ」(満田)と、復帰2戦目で本領発揮した「シオ」、スキッベ監督が厚い信頼を寄せる2人のそろい踏みが、6月4日の京都戦以来の勝利をもたらしたのだ。
塩谷司(しおたに・つかさ)
1988年12月5日生まれ。徳島県出身。徳島商高から国士舘大を経て2011年、水戸に加入。翌年8月、広島に完全移籍。広島時代の5年間でリーグ戦17得点を記録し、2021年10月の復帰後にも3得点。アルアイン(UAE)時代の2018年クラブワールドカップ決勝ではレアル・マドリードから得点も奪っている。記事中に触れたふくらはぎの大きさ44cmは「日本人平均は約37cm、かつてリバプールで活躍した屈強なスイス代表MFジョルダン・シャキリが41cm」という数字からも、その凄さが理解できる。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】