パスを受けた中島洋太朗は、すぐに前を見た。
約0.5秒後、彼はボールを浮かした。
そこには誰もいない……、いや、いた。佐々木翔が走っていた。ボールはキャプテンの前にピタリ。
圧巻の決定機を高校2年生がパス1本で、つくってしまった。8月23日に行われた紅白戦での出来事だ。
確かなボールタッチと判断の速さは才能の証明。「ボールタッチのフィーリングがいい」と指揮官も称賛(8月25日撮影)
「あれは得意なプレー。ただ、まだまだ味方にパスを通す確率が低い」
17歳はサラリという。「騒ぐほどではないです」と言わんばかりに。
ボールに関わらず《消える》時間が長かったことが課題だったが、そこもトレーニングで克服しつつある(8月25日撮影)
プレシーズンでのキャンプでも、中島は可能性を見せてはいた。
ブルガリアの強豪・CSKAソフィア戦(1月18日)では、ナッシム・ベン・カリファの「幻のゴール」を生むスルーパス。1月25日にはトルコリーグ1部のカスムパシャSK戦で同点ゴール(下記動画6:55〜)。そしてFCソウル戦(2月8日)でも得点を決めた。
当時はボールに絡めない時間も長く、守備の強度も課題。ただ「自分の課題は理解していましたし、フィジカル強化も含めて意識してきました」と語った中島の成長は速かった。
6月17日からタイで行われたU-17アジアカップでは、グループステージ・インド戦で見せた1得点1アシスト(下記動画5:00〜)以上に、タフな守備と攻守で闘う姿勢をU-17日本代表の森山佳郎監督に評価された。「特別なモノを持っている」と森山監督が言う青年の才能が開花の兆しを見せ、主軸として優勝に貢献したのだ。
広島ユースの野田知監督が「フリーでボールを持たせれば、何でもやれる」と評価した中島は8月に入るとトップチームの練習に合流。「子供から大人になってきた」とスキッベ監督は彼の成長を認め、8月26日の柏戦では19番目の選手として遠征にも帯同させた。
そして9月1日、クラブは中島洋太朗とプロ契約を締結。高校2年でのプロ契約は高萩洋次郎(現栃木)、大迫敬介についでクラブ史上3人目の快挙だ。
厳しく強度の高いトレーニングにも違和感なく入っているところが、能力の高さを示している(8月30日撮影※奥の白いビブスが中島)
「今季中には(出場の)チャンスを与えたい」と指揮官は語る。中島も「チャンスをつかむために、練習に取り組みたい」と意欲がギラギラ。父・中島浩司に続いてのJリーグ出場となれば、もちろんクラブ史上初の「親子Jリーガー」となる。
中島洋太朗(なかじま・ようたろう)
2006年4月22日生まれ。広島県出身。父は仙台・千葉・広島で活躍した中島浩司。父は洋太朗が生まれた10日後の5月2日、浦和戦で見事にゴールを決めて息子の誕生を祝福している。サンフレッチェ広島の育成組織で育ち、昨年から広島ユースに加入。U-17アジアカップでは大会途中から信頼を勝ち取り、決勝トーナメントでは3試合中2試合で先発。優勝と共に11月からインドネシアで行われるU-17ワールドカップの出場権獲得をつかみとった。ポジションはボランチかトップ下で、ゲームメーカータイプではあるが自らシュートを決める能力も高い。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】