言葉にできない。筆者程度の実力では、このゴールをどう表現していいか、わからない。
まずは下記動画を見ていただきたい。13分35秒あたりからでいい。
野津田岳人が「ヤバいね」と口走り、川浪吾郎が「アメージング」と唸る。東俊希は「彼はチートです」と笑い、荒木隼人は「後ろから見て何が起きたか、わからなかった」。
8月19日川崎F戦、エディオンスタジアム広島につめかけた2万1771人のサポーターは、伝説のゴールが生まれた瞬間に立ち会えた。主役はもちろん、この日が広島デビューとなったマルコス・ジュニオールだ。
広島の練習場に初めて登場したマルコス・ジュニオール。サポーターの拍手に応えてくれた(8月16日撮影)
「あの時、自分が何をどうやったか、自分でも覚えていないんだ。ゴールを決めたことだけは、覚えているんだけどね(笑)。本能のまま、アドリブでプレーしただけ。こういうプレーができたことは一つの運命だと思う。自分を信じていたことは確かだけど、あんなゴールを決めたことは、これまでないよ(笑)」
練習でもちろん、彼の技術の高さは確認できたが、凄いと思ったのは戦術眼。どこに動いて、何をどうするべきか、その判断にブレはないし、何より決断が速い(8月16日撮影)
2019年、横浜FMの優勝に大きく貢献し、得点王に輝いた。その後も横浜FMの勝利に大きく貢献し続けたマルコス・ジュニオールだったが、去年は度重なるケガもあってポジションを失い、今季の先発は僅か5試合という苦しい日々を、名手は過ごしていた。
「ここまで自分に起きた出来事が脳裏に浮かんで、一つの動画のように流れてきてね……。感激を表現するべき言葉もないんだ」
広島での練習初日には500人のサポーターが集まり、声援を贈った。彼らに対して一人一人、丁寧にサインを書き、写真撮影にも笑顔で応じた10番(8月16日撮影)
ミヒャエル・スキッベ監督は「マルコスがウチに来てくれて、本当によかった」と語った後、言葉を繋げた。
「パスやシュートをどのタイミングで、どんな質で放てばいいか、そういう感覚がすごく優れている。ボール扱いを含めた、サッカー選手としてのクオリティが素晴らしい」
美しい碧い瞳と笑顔が愛くるしいヒーロー(8月16日撮影)
記者会見で「ゴールを決めたらやりたい」と言っていた選手全員の「かめはめ波」ができたマルコス・ジュニオール。
「次のゴールを決めたら、もう一つのパフォーマンスをやりたいね」。
それはもちろん、右腕に彫ったドラゴンボールのキャラクター・クリリンの得意技「気円斬」である。
マルコス・ジュニオール(Marcos Junio Lima Dos)
1993年1月19日生まれ。ブラジル出身。ブラジルの名門クラブ「フルミネンセ」で活躍し、全国選手権での優勝経験もある。2019年、横浜FMに移籍し15得点を記録して得点王を獲得。パス・シュート・ドリブル、全てがハイスペックで、前線からの守備もしっかりとこなすチームプレーヤーでもある。海外のクラブからのオファーを断り、横浜FMの10番としてサポーターに愛されていたが、今年の夏、広島に移籍。デビュー戦となった川崎F戦では1得点1アシスト。後半アディショナルタイムには満田誠の決勝ゴールを演出するスルーパスを出してスタジアムを熱狂させた。「ドラゴンボール」の大ファンであり、そのキャラクターである「クリリン」はブラジル時代からのニックネーム。そういう理由もあり、ドラゴンボールに出てくる必殺技である「かめはめ波」や「気円斬」を、来日以来ずっとゴールパフォーマンスとして披露してきた。左腕にはクリリンのタトゥーが入っている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】