広島の10番・森島司は瞳を輝かせて、17歳の若者について語った。
「広島ユースの棚田遼君は上手い。彼のデビュー戦(5月5日ルヴァンカップ対横浜FM戦)で初めてプレーを見たんですが、FWもトップ下もできる技術を前に出したスタイルで、今の広島のFWにはいないタイプ。見ていて新鮮でした」
森島の高い評価は、納得感がある。それほど、棚田が横浜FM戦で見せたパフォーマンスは見事だった。
15分、華麗な足業で相手のプレスをかわし、見事なスルーパスで藤井智也のシュートを導いた。37分には決定的なヘディングで相手ゴールを脅かす。60分で交代する時、ホームのサポーターから大きな拍手が贈られた。それが彼の評価を示していた。
5月18日、対仙台戦前日。勝てばルヴァンカップのプレーオフステージ進出に繋がる大きな試合の先発が濃厚となっていた。
「中学時代の日本クラブユース選手権決勝(2018年)で2得点をあげて優勝に貢献しましたね。大舞台に強いのでは?」
そんな問いかけに棚田は頷く。
「大舞台で燃える気持ちこそ、自分の持ち味です」
現実は厳しい。試合は仙台に圧倒され、0-3と完敗。ただ、棚田と鮎川峻の2トップが見せたアグレッシブなプレーは多くのサポーターの共感を呼んだ。
やや下がり気味の位置でボールを受け、ドリブルやスルーパスでチャンスをつくり、42分にはミドルシュートも。45分での交代となったものの、城福浩監督は「(鮎川と棚田の)2トップは悪くなかった」と評価。裏を狙い続ける鮎川と技術の高い棚田、若き2トップに広島の未来を見たサポーターも多かった。
「プロの雰囲気はわかりました。次にチャンスをもらえれば、自分の特長を活かして点がとりたい」
柔らかい技術とギラギラした闘志。何人もの才能を輩出してきた広島ユースからまた、俊才が台頭してきた。
棚田遼(たなだ・りょう)
2003年6月19日生まれ。広島県出身。広島ジュニアユース時代の日本クラブユース選手権(2018年)で優勝し、MVPを獲得。翌年、広島ユース1年時には広島県選抜の国体準優勝に貢献し、U-16日本代表にも選ばれた。今春、トップチームのキャンプに参加して自信を深め、高円宮杯プレミアリーグWESTでの広島ユース首位快走の原動力に。トップチームが連戦と負傷者続出という事情もあり、5月5日のルヴァンカップ横浜FM戦でデピューを果たした広島ユースの10番である。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】