ムシカシマイ——。
日本のテニス関係者の間で、この言葉がしばしば囁かれるようになったのは、数年前のことだ。音で聞くと分かりにくいが、漢字にすると「虫賀姉妹」となる。
虫賀愛央(まお)と心央(みお)の二人は、小学生時代から二人で全国大会のタイトルを競い合ってきた、日本テニス最強のツインズだ。
全国選抜ジュニア、そして全国小学生テニス選手権での頂上決戦から、4年半が経ったこの1月。16歳になった二人の姿は、全豪オープン会場のメルボンパークにあった。
同大会のジュニア部門に、愛央と心央はそろって出場。ダブルスでも、二人はチームとしてコートに立った。
虫賀という珍しい苗字は、岐阜県や愛知県に多いという。
例に漏れず最強姉妹も、県境に近い愛知県一宮市出身だ。ちなみに二人が育った木曽川ローンテニスクラブは、日比野菜緒も輩出した名門。「隣のコートで、日比野さんが練習してました」と、二人は幼少期を述懐した。
そのような環境ゆえだろうか、二人の視線は早くから世界に向けられていた。
小学5年生の時には、盛田正明テニスファンドの存在を知り、「応募資格である全国大会ベスト4を目標にした」と声をそろえる。
単にアメリカに行きたいというだけでなく、「フロリダだと南米にも遠征に行きやすい」というビジョンを持っていたというのだから、恐れ入る。
それら明確なモチベーションに背を押され、二人はそろって盛田ファンド奨学生に。アメリカへと旅立ったのは、13歳の時である。
二人一緒……という心強さが、異国の不安やさみしさを打ち消しただろう。「アメリカにはすぐに慣れた」と言い、言葉も一年ほどで不自由しないまでに上達した。
もっとも「アメリカ行く前は、心央はずっと泣いてたんです」と姉がばらす。
「でもアメリカ行ったら、直ぐに大丈夫だったもん」
妹は少し口をとがらせ、反論した。
双子とはいえど二人は、性格からプレースタイルまで対照的だ。
ややのんびりした姉に対し、妹は勝ち気。
姉は右腕からの強打が武器で、妹は左腕から放つ多彩なショットの組み立てを得手とする。
力強いストロークで姉の愛央が組み立て、ボレーが好きな心央が仕留める。姉妹が得意とするポイントパターンだ
今大会、シングルスでは共に初戦で敗れたが、対照的なプレーが生み出す化学反応を生かして、ダブルスではベスト8に勝ち上がった。
多くのジュニア選手は、初めてグランドスラム会場を訪れると、良くも悪くも、気持ちが高揚しがちだ。
だが、16歳にして既に多くの経験を積む二人は、「それほど……出ている子たちも、他の大会で会ったりしているから」と、驚くほどに平常心。
それでも、トッププロの試合や練習を間近で見て、「ボールの深さや回転が分かって、テレビで見るのと全然違う」と、多くの刺激も得た。
ここまで二人三脚で歩んできた二人だが、この後に姉は南米のジュニア大会に出て、妹はチュニジアのプロ下部ツアーに行くという。
昨年、コロナを患いジュニアランキングも下がってしまった妹は、今後はプロサーキットを中心に回る予定。一方の姉は、ジュニアに出つつ、プロの経験も積んでいきたいという。
「心央が居ないと、伸び伸びできる!」
「こっちだって、伸び伸びやらせてもらってます」
「ひとりでも洗濯した?」
「やってるわ」
そんな会話を交わし、距離は離れても心を通わせながら、それぞれの道を歩んでいく。
【虫賀愛央(まお)・心央(みお)】
2005年7月21日生まれ。盛田ファンドの支援を受けて13歳で渡米。ファンドのプログラムが終了した現在は、フロリダ州のゴメス・テニスアカデミーを拠点とする。