試合を終えた彼女の下には、複数の取材依頼が届いていた。
日本からのリモート取材に、大会を中継するWOWOWのインタビュー。
筆者の番が回ってきた時には、彼女は既に、30分ほどメディア対応した後だった。
「ぜんぜん大丈夫です。そんなに注目されている実感はないです。ただやっぱり、伊達さんのプロジェクトに関わらせて頂いてからは、けっこう取材も多くなって。でもプレッシャーとかは感じてないです」
取材が重なることを詫びると、彼女はそう言い、ゆるやかに笑った。
今回がグランドスラムジュニアのデビュー戦となる木下晴結が、注目を集める理由はいくつかある。
昨年10月の、世界スーパージュニア選手権優勝者であること。
ダンロップ主催の全豪予選ワイルドカード選手権を制し、15歳にして予選から勝ち上がったこと。
そして、伊達公子自らが選りすぐりのジュニアを指導する、“伊達公子プロジェクト”の二期生であること——。
それら華々しい実績を残すに伴い、周囲の関心も高まっていた。
本人は重圧を否定したが、コーチの奥田裕介氏の目には、木下らしい遊び心がプレーから薄れているように映ったという。今大会のシングルス初戦でも固さが見られ、大柄のシード選手に押し切られた。
木下の持ち味は、多彩な球種を用い、テニスが持つチェスのようなゲーム性を楽しめること。
フィジカル強化に技術変更も施して、フォアの決定力が大きく上がった木下
その戦略性に加え、ここ数年で身長が急激に伸びたことで、フォアハンドで攻められるようになったのも大きいという。
ちなみに、憧れの選手はアシュリー・バーティ。確かに木下の配球の妙は、世界1位と似たものがある。
そんなインタビュー中の、出来事である。
試合で快勝し会見を終えたバーティが、こちらに向かって歩いてきたのだ。
木下が大のファンだと伝えると、「ありがとう、頑張ってね!」と笑みを返すバーティは、写真撮影の求めにも快く応じてくれた。
頬を紅潮させ、溶けそうな笑顔を広げる木下。
その姿を見るコーチも、「あれです。あの笑顔が、ここ最近は見られなかったから」と安どの笑みをこぼした。
シングルスでは敗れたが、齋藤咲良と組むダブルス2回戦(25日夕方)では、本来の伸びやかなプレーが見られるかもしれない。
「みんなから、グランドスラムはすごいよと聞いていたけれど……ほんっっとにすごいですね!」
興奮冷めやらぬ様子で、全豪オープン会場の煌びやかな空気を全身で吸い込みながら、彼女は言った。
「テレビで見た選手たちがその辺に居るのもすごいなと思ったけれど、自分もそういうところに来たんだなって思って。その人たちと試合がしたいです」
いちばん対戦したいのは、バーティ?
答えの分かり切った問いを、敢えて向けてみる。
「はい! がんばらないと」
返ってきたのは、弾む声と笑顔だった。
木下晴結(きのした・はゆ)
2006年10月27日生まれ、大坂府枚方市出身。5歳の時に地元のスクールでテニスを始め、京都府京田辺市のテニススクールで腕を磨く。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】