“WJPチャレンジテニスby BNPパリバ”――。
今年で3回目を迎えるこのイベントは、車いすにジュニア、そしてプロの選手たちが、カテゴリーや性別を超え、同じコートで競い高め合うことをテーマに掲げる。
一瞬の交錯で散った火花は、参戦選手たちの情熱にいかに点火し、いかなる広がりを見せるのか?
ビッグサーバーとの戦いで立ち返ったテニスの原点
そのカードは、イベント実行委員たちが「ずっとやりたいと思っていた試み」だったという。
男子プロ選手対女子プロ選手。
3回目のイベントにして初めて実現した男子プロvs女子プロの対戦カード
過去2回で実現できなかったのは、選手の選定が難しいため。
ネームバリューがあり、実力的に同等で、なおかつプレーが“噛み合う”顔合わせが理想。だがそのような人材を、見つけるのは容易でなかった。
実行委員の熟慮の末、今回白羽の矢が立ったのが、加藤未唯と小野田倫久である。
男子プロの小野田は、元世界ランク296位の44歳。現在はコーチとして活動し、人気YouTubeチャンネルの出演者としても知名度が高い。
対する加藤は、グランドスラムを含むツアーを主戦場とする27歳。現在はダブルスに軸足を置くが、シングルスでもツアー準優勝の実績あり。快足を生かしたコートカバー能力と、ボレーやスマッシュなど“魅せる”プレーが持ち味だ。
イベントのオファーを聞いた時、加藤はてっきりダブルスのみの出場かと思っていたという。
直前までツアーを転戦していたため、シングルスの練習ができないまま挑んだ今回のイベントでもあった。
そのような事情もあっただろう、試合立ち上がりは、小野田が自信を持つサーブに苦しめられる。
だがその相手の武器が、加藤の闘志に火をつけた。
「サーブで負けるのが一番イヤ」の気性は、小柄な身体で世界に立ち向かう彼女が、譲れぬテニスの信条だ。
戦術を立て、相手の心を読み、多彩な技で未来を切り開くのが、彼女が信じるテニスの本質。
その正しさを示すためにも、自ずと「絶対に負けるもんか」との気概が沸き立った。
観客が息を飲む音も聞こえそうな緊張感のなか、接戦を制したのは、強気に攻め切った加藤。勝利を決めたのも、フォアのウイナーだった。
勝負どころでサーブ&ボレーを決める加藤
「やっぱり、シングルスしたいなって」
それが試合後、加藤が自然と口にした言葉。
「自分のような選手が居るっていうのを、多くの人に見てほしいなって」
この1年、シングルスにはほぼ出ていないため、ランキングを上げるとなればゼロからの再スタートに近くなる。
それでも来季は、シングルスも視野に入れてスケジュールを組みたいと言った。
「後悔して引退したくないなって、最近、思っているので」
浮遊感ある語り口に、覚悟の色がふと灯る。
男子選手との対戦で再燃した情熱は、新たなチャレンジの原動力となる。
加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年11月21日生まれ、京都市出身。2017年全豪OP複ベスト4、2018年東レパンパシフィックオープン複優勝。
小野田倫久(おのだ・みちひさ)
1978年1月31日生まれ、静岡県出身。2002年アジア大会金メダル、全日本選手権ベスト4。柔らかなタッチとボールを捕える能力は天才的と称された。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】