“WJPチャレンジテニスby BNPパリバ”――。
今年で3回目を迎えるこのイベントは、多種多様な立場の人々が、ほぼ同一ルールで競い合える、テニスの美点に主眼を置いた競技会だ。
WJPの3文字は、Wheel chair(車いす), Junior(ジュニア), Professional(プロフェッショナル)の頭文字。
それぞれのカテゴリーに属する選手たちが、年齢や性別の壁も越えて、ある者はネットを挟み、ある者とはネットの同じサイドに立ち戦った。
多彩なプレースタイルと人生観の共演は、時に新たな化学反応を生み、時に鮮烈な熱を放つ。
一瞬の交錯で散った火花は、選手たちの情熱にいかに点火したのか?
まずは、添田豪だ。
次期代表監督に与えたものとは
現役最後の大会となる全日本選手権開幕を目前に控え、添田は“WJPテニスチャレンジ”の会場である、千葉県柏市の吉田記念テニス研修センターに居た。
競技者キャリアの終焉を走る彼は、同時に、新たなキャリアのとば口にも立っている。
日本ナショナルチーム監督。
それが、来季から彼が背負う肩書だ。
「こういったジャンルの垣根を越えた素晴らしいイベントに参加できて、ここで新しく感じることがあった」
今回が同イベント初出場の添田は、涼しい語り口に時折熱を込める。
“プロフェッショナル”の肩書きを背負う彼が、参戦したのは混合ダブルス。ジュニアの前田璃緒と組み、プロの加藤未唯とジュニアの細野暖のペアと対戦した。
パートナーの大役を務めた前田は、全日本ジュニア選手権ベスト4の17歳。
試合前は「添田選手はテレビで見るすごい方」だと緊張したが、実際には「ミスをしても優しく励ましてくれた」と表情を崩す。試合後には、両者の誕生日が同じことを知り、その偶然に二人で笑った。
華麗なプレーでジュニアを牽引。ボレーを決める添田(コート手前黒ウェア)
硬さが隠せなかったのは、ネットを挟む細野も同じ。
ただ試合が進むなかで、加藤にリードされプレーも表情もほぐれていく。
ハイライトは、添田がリターンに立った場面。
左腕を振り抜きセンターに叩き込んだ細野のフラットサーブは、必死に伸ばした添田のラケットをかすめてバックフェンスに届く。
鮮やかにエースを決められる添田(手前)
「添田選手からのサービスエースは嬉しいですね。自慢します」
試合後の細野は、溶けそうなほどに目じりを下げて笑みを広げた。
現役引退と同時の監督就任は異例の早さだが、添田は「今だからこそ出来ることがあるはず」だと言った。
4年前には男子プロ選手会を立ち上げ、自ら初代会長に就任。多くの選手の声に耳を傾けてきた彼のアンテナは、今回のイベントで、さらに感度を高めたようだ。
「男子プロだけで固まるのではなく、車いす界には素晴らしい経験を持った選手が居るので、良いアドバイスをもらいたいなと思います。ジュニアの選手とも一緒に練習する機会を設けて、コミュニケーションをもっと取っていきたい」
さらに添田は、こうも続ける。
「こういうイベントは人脈を広げることにもつながる。日本代表チームとして、一丸になって戦っていくことが今後大事になってくると思うので、そういったことも、ジャンルを超えてやっていきたい」
柔軟な器に新たな着想を注ぎ、監督・添田豪のビジョンは一層の広がりを見せる。
添田豪(そえだ・ごう)
1984年9月5日生まれ、神奈川県出身。最高世界ランク47位。国別対抗戦”デビスカップ”では長く日本代表の主力を務める。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】