試合後の挨拶の時、二人はハグを交わし、笑顔で二言、三言と言葉を交わした。
全仏オープン女子ダブルス2回戦の、加藤未唯(トップ写真右)と対戦相手となったジャン・シューアイ。
二人はグランドスラム3大会連続で対戦し、今回の全仏も含め、いずれも加藤が敗れている。
「なんか……深まってきたんですかね、仲が」
そう言い加藤は、笑みをこぼした。
今回も含めた3度の対戦では、お互いに同じパートナーだった訳ではない。今回のジャン・シューアイのパートナーはビッグサーバーのケティー・マクナリー。加藤の相棒は、ダブルス巧者のアルディラ・スーチャディだ。
それでも、加藤が「今回こそ、どうにかしなくちゃ」と警戒した相手は、ジャン・シューアイ。
現在ダブルス5位のジャン・シューアイは、シングルスでも3つのツアータイトルを持つ。
重いストロークが武器の宿敵と、トリッキーでアクロバティックな動きが持ち味の加藤がダブルスで対戦する時、その戦いは前衛対後衛、読み合いと駆け引きの知能戦の色を帯びる。
ネットを挟んだ時に感じる圧力を、加藤は次のように語った。
「バックハンドが凄く良くて、クロスラリーで打ち負かせそうにない。なので、どうやってストレートにもっていくかを考えていたんですが、なかなかポーチにも出られず……」
2回戦突破は出来ませんでしたが、いいプレーも沢山あり、‘’私らしさ”を出せたかなと思います😫🥺
— Miyu Kato / 加藤 未唯 (@miyukato1121) May 28, 2022
2セット目はリードしていたので余計悔しいですが…
あとはもぎ取るだけです🥲 次こそは…
お客さんが戻ってきて、
その中でのプレーはすごく楽しかったです👏✨@rolandgarros pic.twitter.com/B9o54GaUhX
クロスラリーを封じるためポーチに出れば、ストレートに抜かれるリスクが高まる。
そのリスクと収穫の間で揺れる心の動きについて、加藤が興味深い洞察を口にした。
「実際に抜かれたのは、3~4本くらいだったんです。でも試合している中では、けっこう抜かれているなと思っちゃって。ポーチに出てないのに抜かれていると思ってしまうという、一番良くない状況を作ってしまって」
その、現実とイメージの乖離を生んだのは、過去の対戦時の残像だろう。
「こちらの前衛の動きを見て、ちょっとタイミングを遅らせて打ってくる」という相手の技量の認識も、イメージをより強化したかもしれない。
前衛での鋭い動きで、ボレーを決めるのが加藤の持ち味(動画は1回戦)
ただ今回の対戦のなかで、攻略への手応えも得られたという。
「試合の中で、フェイントを入れたら、誘えていた」というのが突破口。
現に第2セットでは、空間を広く使って目まぐるしい攻防に持ち込み、常にブレークで先行。
ただ、「大切な場面で取り切れなかった」と、課題を持ち返った。
昨年の全米オープンから全豪、全仏と対戦し、「たぶん、ウィンブルドンでも当たるかも」と1か月後を予見する。
なお、ネット際で加藤が掛けた言葉は「次は勝つよ、やられすぎてるからね」。
次の対戦に向けた戦いは、早くも始まっている。
加藤未唯(かとう・みゆ)
京都市出身、27歳。全豪OP複ベスト4やジャパン女子OP単準優勝など単複で活躍するオールラウンダー。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】