オンス・ジャバーのサービスゲームーー。
リターンの良いキャロリン・ガルシアが、明らかに戸惑っていた。
ベースラインの内側で待ち構え、ボールの跳ね際を叩く鋭いリターンは、今季好調のガルシアが「すごく練習してきた」武器。
準々決勝のココ・ガウフ戦ではその武器を振るい、完勝とも言える勝利を得る。
特に相手のセカンドサーブでは、73%の高確率でポイントを奪った。
ところが準決勝の対ジャバー戦では、自慢のリターンが揮わない。
高いリターンポジションを保つことで、相手にプレッシャーをかけ、ファーストサーブのミスを誘うまでは狙い通り。
ところが、セカンドサーブに対するリターンで43%しかポイントを取れない。
相手のセカンドサーブでポジションを上げるが、リターンで主導権が奪えなかったガルシア
結果、一度もサービスゲームをブレークできず、試合は6-1,6-3のスコア。
ジャバーの完勝だった。
この試合をコートサイドで見ていた最中、日本でテレビ中継を見ている知人のテニスコーチから、「ジャバーのセカンドサーブ、あまり跳ねてないよね?」とLINEが入った。
「確かに……」と思った。セカンドサーブは、確実性を上げる狙いもあり、スピンを掛けて高く弾ませるのが一般的。
だがこの試合でのジャバーのセカンドサーブは、むしろ低い軌道だった。
試合後、ガルシアに尋ねてみる。
「ジャバーのサーブを返すのが難しいのは、読むのが難しいからか、コースが良いからか」と。
ガルシアの答えは、簡潔だった。
「その両方。いろんな球種を混ぜてくるから読むのが難しいし、コースも良い。トスが低いからタイミングが取りにくく、軌道の低いサーブ……特に、スライスサーブの対処ができなかった」
マッチポイント。ガルシアがセカンドサーブを叩きに行くも、ネットにかけて試合に幕
この低い軌道のセカンドサーブは、高い打点で叩くガルシアのリターンを封じるための、ジャバーの策。
試合後のジャバーは、「初めてコーチの指導に100%したがって、それが上手くいった」といたずらっ子のように笑った。
ちなみに……ジャバーが明かしたスライスサーブ上達の理由は、テニスファンなら思わず嬉しくなるエピソード。
「私はアランチャ・サンチェスに憧れていて、最近彼女から色々と助言ももらえた。特に、スライスサーブのコツとかね」
サンチェスは、90年台に活躍し、全米OPも含む4度のグランドスラム優勝者。
その憧れの存在を目前にして興奮し、無邪気に教えを乞うジャバーの姿が目に浮かぶようだ。
人懐っこい業師にして策士が、自分の個性を総動員して、初のグランドスラムタイトルを取りに行く。
Ons Jabeur(オンス・ジャバー)
1994年8月28日生まれ、チュニジア出身。2020年にトップ10入りし、今年のウィンブルドンでは決勝進出。アフリカ出身や、アラブ人女性としての初の記録を打ち立て続けるパイオニア。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】