【女子テニス】慶應チャレンジャーで単準優勝。シングルス再スタートの加藤未唯が好結果を残せた訳
横浜開催の“慶應チャレンジャー(女子ITF$25,000)”で、加藤未唯がシングルス準優勝を果たした。
エキシビション大会“WJPチャレンジテニス”で男子選手と対戦し、「やっぱりシングルスは楽しい。もう一回挑戦したい」と宣言してから、3週間も経っていない日のことである。
ここ4年ほどダブルスに軸足を置いてきた加藤だが、今大会では全日本選手権を制したばかりの坂詰姫野をはじめ、勢いある若手をも次々撃破。決勝では韓国のハン・ナレに敗れるも、予選から7日間で7試合を戦い抜いた。
本戦初戦で荒川晴菜と対戦する加藤(手前)
「テニスやめようかと思いましたよ、あの時は」
本気か諧謔(かいぎゃく)か。彼女がそう振り返るのは、2年前の日。久々に出場した全日本選手権のシングルスで、初戦で敗れた時のことだ。
「わたしのテニスはまずは動いて、そこから考えながらプレーを組み立てる。なのに動けなかったら、話にならないなって」
テニスプレーヤー加藤の中核を成すのは、フットワークやスタミナに象徴されるフィジカルだ。ダブルスでも驚異的な反射神経や瞬発力が、彼女の強さを支えている。
ところがその彼女が2年前にシングルスを戦った時は、「まったく動けなかった」。
理由は、シングルスとダブルスで求められる動きの質の差異にある。
「ダブルスは細かいステップが多くて、そこから急に大きく飛びついたりする動きが必要なんです。でもシングルスは、走って切り返して、また走ってという動きが何回もある。一つひとつの動きが大きいので、そのあたりはダブルスと全然違うんです」
2年前の落胆は、記憶にこびりついている。だから今大会が始まる前も、「また動けないかも」との不安があったと打ち明けた。
ただ予選の初戦で山口芽生に勝った時、「わたし、上手くなったんじゃない?」の思いが胸に灯る。
「凄く打ち込んでくる」と評判の選手の攻撃に、十分に対応できたからだ。
本人が「最もしんどかった」と振り返り、同時に「フィジカルなら負けない」との手応えを取り戻したのは、本戦2回戦。
サウスポーの実力者、村松千尋との、4時間にわたる死闘を制した時である。
もっとも翌日は、「絶望的に疲れていた」と苦笑い。
ただその時、試合前のウォームアップ練習をしていた清水綾乃から、こんな言葉を掛けられた。
「大丈夫です、未唯さんは疲れていても誰よりも速いので!」
4年前の全日本選手権優勝者のその言葉が、「けっこう嬉しくて。あのお陰でがんばれました」と加藤は笑う。
実際に準々決勝の坂詰戦では、第1セットを落とすも逆転勝利をもぎ取った。
大会前を控えての練習の様子。サイドラインと平行にマーカーの棒を置き、その間を狙いストレートで10球連続打ち込むとクリア
「全然動けない」自分に愕然とした2年前と、今大会の違いとは何だったのか?
その問いに、加藤はシンプルに「練習です」と答える。
「トレーニングでは差が出ない、試合でしか鍛えられない動きがある。それを想定して、シングルスの練習をしっかりやってきたからだと思います」
目的意識を持って取り組んだ練習と、その結実の準優勝。
自身の原点を再確認し、改めて彼女は宣言した。
「一からの再スタートになりますが、来季はシングルスにも挑戦していきたいです」と。
加藤未唯(かとう・みゆ)
1994年11月21日生まれ、京都市出身。2017年JWO準優勝、2018年東レパンパシフィックオープン複優勝。156㎝と小柄ながら、全身のバネと天性のタッチを生かしたアクロバティックなプレーが武器。
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