ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が「弱すぎる」との見方が強まっている。報道によれば、NATO(アメリカ軍中心の軍事同盟)関係者は、この1カ月で7000~1万5000人のロシア兵が死亡したと推定しているという。ロシアのタブロイド紙『コムソモリスカヤ・プラウダ』も、ロシア兵9861人が死亡、1万6153人が負傷したと報じている(現在は削除済み)。
ロシアは侵攻を始める直前、ウクライナとの国境付近に15万人以上の兵を集結させ、軍事訓練をおこなった。しかし、アメリカ国防総省によると、現在のロシア軍は、侵攻前と比較して10%以上の戦力を喪失している可能性があるという。
長期化する戦いのなかで、ロシア軍の将校6人が死亡したとされている。ウクライナで指揮を執る将校は20人程度とされており、この情報が確かなら3割が死亡した計算になる。ロシアの軍事力は世界2位と言われ、約7兆2600億円の年間軍事予算を誇る。約4800億円のウクライナを圧倒してもいいはずなのに、なぜここまで苦戦しているのだろうか。
ロシア軍が停滞する理由について、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「管理がうまくできていないことによる混乱」と語る。
「まず、電子戦がうまくいっていません。通常だったら、自分たちが安全に電波を使えるようにして、相手は使えないようにする。それがロシア軍は全然できていないんです。たとえば、ウクライナ側が普通にドローンを飛ばしてロシア側の偵察ができている。電子戦を徹底すれば、ドローンなんて飛ばせないはずです」
さらにロシア軍は、暗号化されていない無線機を使用している。通信環境が悪い場合は個人の携帯電話さえ使って、連絡を取り合っているという。
「要するに、妨害されない、普通に使える通信機の数が足りないわけです。やむをえず、普通の携帯電話を使っているケースも見受けられますが、この場合、ウクライナの電話施設を使うことになるので、ウクライナ側に情報が漏洩している可能性があるのです。とにかく、ロシア軍の通信がうまくいってないんですね」(前出・黒井氏)
また、アメリカ国防総省は、ロシア軍の食料や燃料不足が深刻化していると発表している。防寒具も足りないことから、兵士の多くが凍傷になり、戦線を離脱する兵士も続出しているという。
「ロシア軍は、3日くらいでウクライナを制圧できると思っていたようです。だから、長期戦に備えた準備をしていない。事前の準備不足が大きく響いているのです」(同)
一方でウクライナ側の頑強な抵抗を支えるのが、2つの最新兵器だ。
1つめは、無人戦闘機「バイラクタルTB2」。トルコのバイカル社によって開発された、ガソリンエンジンで動くドローンで、最大27時間の遠隔操作が可能。150kgのミサイルや爆弾を搭載することもできる。
「バイラクタルTB2は、無人機でありながら、攻撃力が高い。高高度から目標を狙い、ミサイルを撃ち込むことができる。無人機というのは、スピードがとても遅いんです。なので、ロシア側が制空権を確保していれば、簡単に撃ち落とされてしまいます。しかし、現段階でロシアが制空権を確保していないため、『バイラクタルTB2』が機能しているのです」(同)
2つめは、対戦車ミサイル「ジャベリン」で、歩兵が肩に担いで敵の戦車を砲撃できる。ゲリラ戦に有効で、この攻撃により、ロシア軍は200両以上の戦車を失ったと報じられている。
「バイラクタルTB2より、ジャベリンの方が大きく機能していると言えます。ジャベリンは非常に性能が高く、ロシアの装甲車を効果的に破壊します。戦車は、装甲が厚い正面を砲撃しても壊れないんですが、ジャベリンは上空150mくらい上がって、装甲の薄い上部を狙うんです。さらに、『爆発反応装甲』という弾の威力を減殺する装甲を打ち破ることができる。狙いをつけて撃てば自動的に敵に当たる仕組みで、訓練をしていない素人でも使えます」(同)
ジャベリンは高価で、ミサイル一発撃つのに2000万円かかる。NATOが無償で大量に供与しているため、ウクライナが善戦できている。
いま戦場では、新約聖書に登場する聖女マグダラのマリアが、ウクライナ国旗をイメージした後光を背にジャベリンを持っている画像が「聖ジャベリン」と呼ばれ、拡散されまくっているという。ジャベリンが、ウクライナ人にとって “勝利の象徴” になっているのだ。
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