1月28日未明、沖縄署前に若者ら400人余りが集結し、署を襲撃する暴動が発生した。若者らは、停めてある車を破壊し、玄関に向けて石や生卵などを次々に投げつける騒ぎとなり、“コザ暴動の再来” ともいわれ、注目を集めた。
この暴動の端緒となったのは、SNS上に投稿されたある凄惨な動画だった。いったい何が起こったのかーー。
27日未明、沖縄県警のパトカーが、「チャリ暴走」と呼ばれる自転車集団の取り締まりをおこなっていた。同時刻、それとは関係なく、同い年の友人5人でコンビニの駐車場に集まっていた少年たちがいた。一人がこう証言する。
「そのパトカーが、僕たちのいるコンビニに来たんです。補導されたくないし、僕らはバイクでその場から離れました」
こうしてバイクでコンビニから家路についた高校生のAさん(17)だが、仲間の荷物を持ってきてしまったことに気づき、その荷物を返すため引き返した。そこに、一人の警察官が待ち構えていたーー。
ここからはいまだ事実関係に争いがあるが、結果的にAさんは警察官が持っていた警棒により、右眼球破裂の大怪我を負った。前出の少年が続ける。
「Aはメッセンジャーで『あるじゅんにすぐられてから目がやばい(歩きの巡査に殴られて目がやばい)』と送ってきた。すぐにAのところに行くと、道路に倒れて気を失っていました」
少年らは、Aさんが倒れていた場所で、駆けつけた警察官に経緯を説明したという。
「僕が警察官に話しているのに、Aを殴った警察官が割って入り『これは単独事故だよ、単独』と言い張っていました。自分が殴ったことを隠したかったのではないでしょうか」
事件当初は、所轄である沖縄署が捜査していたが、現在は沖縄県警本部の捜査一課があらためて捜査をしている状況だ。一課の次席は「警察官は『バイクを吹かす音がしたので、確認に行ったらバイクが来たため、両手を広げて停止を求めた。ところがバイクが突っ込んできたので、警棒を持っている手が弾かれた。相手のどこに当たったのかはわからない』と話している」と語った。
現場を取材した全国紙記者は「自転車の取り締まりという日常業務にすぎないパトロールで、正当防衛などの理由がなければ本来使えない警棒を手にしていたこと自体が理解し難い」と疑問を隠せない。
Aさんの治療にあたった医師によると、怪我は右眼球破裂だけではなく、右の頬骨と目の横の骨も骨折、さらに脳内出血もしていたという。
本誌はAさんの母親を取材、悲痛な胸中を聞いた。母親が息子の無念について語るのは、本誌が初めてだ。
「息子は、バイクで走っていたら道の右側から警察官が急に出てきて、棒のようなもので殴られたと話していました」
事故が起こった現場は、道幅3メートルほどの狭い道路。警察官は物陰に立ち、Aさんのバイクが通過する瞬間に飛び出し、警棒を顔面めがけ振ったのではないかとみられている。
「事件の2時間前に『早く帰って来てね』とLINEを送っていたばかりでした。息子は昨年9月に免許を取って、125ccのバイクを買ったんです。高校2年で友達も増えて、よく遊びに出ていました。けっして暴走族でもないし、母の日や私の誕生日に必ずプレゼントをくれる優しい子なんです」
母親は嗚咽を漏らしながら続ける。
「手術が終わった息子は『お母さんごめんね。夜遅くなったから、こんなことになってごめんね』と言うので、ごめんじゃないよって言ったんです。悪くないから謝らなくていいからねって。
息子は最初、失明したことを知らず、『視力が戻るかな』と期待を持っていました。でも私が、もう見えないね、元には戻らないよと言うと、黙って頷いていました。
私を気遣い『こっち(左目)があるからいいか』って話すので、そうだね、半分でイケメンになろうねって言うのが精いっぱいでした……」
冒頭の暴動は、目から血を流すAさんの様子がSNSで拡散され、怒りを爆発させた若者たちが警察署の前に集まり暴徒化したものだ。Aさんは病床でそのことを知り、動揺していたという。
「Aは暴動の様子をスマホで見て、『俺の印象悪くないかな。俺のせいでこうなったから』と心配していました。ただ、暴動がなかったら、この事件が注目されることはなかったと思います。不良が警察の制止を振り切って怪我を負った、よくある事件と思われて終わったでしょうね。その意味では感謝しています。暴動ではなく、抗議ならなおよかったとは思いますが……」
事件後の警察の対応に、母親は強い憤りを感じていた。
「警察は当初、たんなる単独事故だと発表していました。その次は、警察官と接触はしたけど警棒は持っていなかったと発表するなど、二転三転しているんです。しかも、交通課の警察官が私の番号を聞いておきながら、今日まで一度も私に電話をかけてきていません。事実を明らかにするつもりがあるのでしょうか」
高校生を失明させるという重大事件にもかかわらず、いまだ謝罪の姿勢すら見せない警察。人々の怒りは収まりそうにない。
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