湿疹と思ったら皮膚がん、肌が痒いと思ったら胆管がん…見逃しがちな「大病のサイン」
◎ “悪夢にうなされる” じつは認知症
(たかしま耳鼻咽喉科 高島雅之院長)
「中年以降、寝言が多くなったり、就寝中にやたら動いてしまうという症状は、もしかすると認知症予備軍かもしれません。夢を見ている間は、首から下は体の力が抜けて、夢のとおりに動いてしまうことは通常はありません。その力が抜ける仕組みが乱れてしまうことによって、レム睡眠のときに夢のとおりに動いてしまうという症状の患者さんを診察した経験があります。こうした症状は将来、レビー小体型認知症が発症する可能性があると報告されています。
◎ “加齢による眼瞼下垂” と思ったら脳腫瘍
(麹町皮ふ科・形成外科クリニック 苅部 淳理事長)
「加齢とともに、まぶたが下がる症状を眼瞼下垂といいます。視界が狭くなるだけではなく、見た目にも老けた印象になることから、美容目的で眼瞼下垂の手術をおこないたいと相談に来る患者さんは非常に多いです。そんななか、私が診察した患者さんの眼瞼下垂の症状が、たんなる加齢によるものではないという医師の直感が働き、脳外科医と連携を取り検査をしたところ、脳腫瘍だったということがあります。
◎ “妻のおなかが出てきた……” 太っただけだと思ったら卵巣がん
(三軒茶屋ARTレディースクリニック 坂口健一郎院長)
「卵巣がんの患者さんは、発見が遅れることがあります。卵巣が腫れてくると “カエル腹” のようにおなかが出てきます。
◎ “いつもボーッとしている” てんかんに
(ブレインケアクリニック 今野裕之理事長)
「60代の男性患者は、たまにボーッとしてしまい、その間の記憶がないという相談で来院されました。ふだんは記憶を失うことはないそうで、認知症を心配していました。脳の画像検査などをおこないましたが、認知症との診断はつかず、脳波を測定したところ、てんかんだとわかりました。今は、抗てんかん薬で問題なく生活を送ることができるようになったそうです。
◎ “暑い日にふらついた” 脳梗塞だと発覚
(AGAスキンクリニック京都河原町院 水本 理院長)
「私が救急外来に勤務していたときのことです。暑い夏の日に、カラオケボックスでふらついたという30代の女性を診察しました。患者さんは、ちょっと調子が悪くなった程度にとらえていましたが、帰る際、歩き方がちょっとだけおかしかったんです。身体診察を追加してCT検査をおこなったところ、脳梗塞だと発覚しました。
◎ “ただの湿疹だと思っていたら……” 皮膚がん
(アクネクリニック勤務 高橋ちあき医師)
「湿疹だと思っていたら、日光角化症という早期の皮膚がんだったことがあります。初診時の症状は、前腕にカサカサした赤い発疹があるということでした。約半年前から発疹があり、他院でステロイド軟膏を処方され、使用していたそうですが、痒みや痛みがないため通院をやめていたそうです。しかし、日に日に発疹のサイズが大きくなり、色も変わってきたので、いよいよ心配になり受診されたんです。
◎ “肌が痒いと思ったら” 胆管がんの可能性
(千里中央花ふさ皮ふ科 花房崇明院長)
「私がまだ若く、大学病院で勤務していたときに、60代の男性患者さんが『肌が痒い』と訴えてきました。痒みといえば、まずはステロイド外用剤や抗ヒスタミン剤で様子を見るのが一般的です。そのときは『大した湿疹じゃないのに痒がり方が異常だな』と思いつつ、同じように処方しました。
「こんな些細なことが大病の原因になるなんて……」とおびえる読者も多いはず。
「心臓病などの大病が見逃される場合、原因のひとつは『放散痛』にあります。感覚神経のほとんどは、太い束となって脊髄に繋がっています。そのため、心臓が痛みを訴えているはずなのに、その信号が別の神経に移ってしまうのです」(竹内内科小児科医院 五藤院長)
「何科を受診するか迷った場合は、消防庁がおこなっている救急安心センター事業(♯7119)に相談するか『総合診療科』を標榜する病院に行けば、大半の疾患に対応してくれるはずです。臨床現場では、患者さんが診察室を出ようとしたときに思い出したように話したエピソードが、診断のきっかけになることもあります。医療業界では、これをドアノブ・クエスチョンといいます。どんな大病であっても、初期症状は些細なものです」(函館稜北病院総合診療科 舛森医師)
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)