舞台に登場するやいなや、深々と頭を下げた。
「いろいろあった2人ではありますが、精いっぱい、頑張りたいと思います」
TKOの木下隆行(51)と木本武宏(52)の挨拶に、100人ほどの観客は温かい拍手で応えた――。
かつて、テレビで数百万人の視聴者を相手にネタを披露してきた2人。だが、2019年に木下は後輩芸人へのパワハラ騒動を、木本は2022年に総額7億円超といわれる投資トラブルを起こし、それぞれ所属事務所を退所した。
レギュラー番組を失い、休止状態だったコンビは2023年1月、木本の謝罪会見の場で活動再開を発表した。2人は個人事務所を設立し、8月から47都道府県を巡回するコントツアー「周るTKO」をおこなっている。
9月23日、白いハイエースで乗り付けたのは、岐阜県岐南町のライブハウスだ。東京から岐阜まで、5時間弱の長旅だったという。
木本はツアーに駆けまわる日々を、「生まれ変わったみたい」と話す。
「背伸びして、カネ儲けに走ってしまった昔の自分とは、まったく違う感覚です。毎公演、オープニングで頭を下げるとき、グッと込み上げてくるものがあるんです。不祥事のことがありながら、お客さんが来場してくださって、そしてグッズを手売りさせてもらう。本当に、嬉しさと感謝の気持ちで頭を下げています」
木下は、ライブツアーをおこなえていること自体を「奇跡だ」と表現した。
「僕らは、2人とも不祥事を起こして堕ちました。正直、そんなコンビは消えていいし、芸人をやめるべきだったかもしれない。それでも、2人とも『芸人を続けたい』というマインドになっていたんです。
どちらか片方が不祥事を起こしたなら、心のどこかで『お前のせいで番組なくなったんやろ、なんでツアーせなあかんねん』って思うかもしれない。でも、僕らは両方が悪いことしてしまったわけで……そんな気持ちはゼロなんです」
今のコンビを支えるのが、マネージャーのまゆみさんだ。「僕の妹なんです」と、木本が教えてくれた。
「まゆみは旦那と死別していて、しかも子供が4人もおるんです。生活費を賄うために東京に呼んで、僕が経営する映像制作会社の手伝いをしてもらっていました。
そんな矢先に投資トラブルで、僕の収入が激減しました。それでも、まゆみは『なんでもするよ』って言ってくれたんです。マネージャー業務だけじゃなく、場内アナウンスや僕らのTikTokの運営までしてくれています」
木本も自らアポ取りしてチケットを手売りし、木下は裏方仕事をするようになった。
「動画編集やスケジュール管理、ギャラ交渉や請求書の発行もします。前は全部お膳立てしてもらっていたんやなって、怖くなりますね」(木下)
翌24日は、朝から三重県四日市市まで車移動。この日、開演前の締まった楽屋の空気が、ほころぶ瞬間があった。
「キンパ(韓国風のり巻き)作ってきたわよ」
木下の母親の定子さん(77)が、大阪から車を運転してサプライズ登場したのだ。
2人の今の目標は、『キングオブコント』優勝。ファンと家族に支えられ、生まれ変わったTKOは、そんな “奇跡” さえも本気で起こそうとしている。
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