「日本のメディアは『反日・親日』という二項対立の古い図式にとらわれています。そもそも日本は、今回の選挙戦で争点にすらなっていません」
「テレビ討論会で、司会者が日韓関係について質問しましたが、4人の候補者はいずれもノーコメントでした。日本にまったく関心がないわけではないし、日本が嫌いだという国民感情がなくなったわけでもないですが、もはや日本は警戒すべき手強い相手ではなくなったのです。『日本無視』よりは『日本不在』と言ったほうが適切かもしれません」
「1990年代までは、韓国にとっていちばん大事な国はアメリカで、2番めが日本でした。今も、アメリカ第一は変わらないが、それと同じくらい重要なのが中国です。
「李氏は文在寅政権の対日政策を継承するでしょうから、日本への厳しい姿勢が続くことが予想されますが、尹氏は金大中‐小渕恵三時代の『日韓パートナーシップ宣言』のころに戻すと言っており、日韓関係の改善に意欲的です。尹氏のほうが望ましいというのが、日本政府の本音でしょう」(前出・木宮教授)
「今のようなギスギスした雰囲気が変わる可能性はありますが、では両国で争っている問題が解決できるかというと、それは楽観的すぎます。韓国世論が許さないし、尹政権になっても、野党(現与党)が国会の6割の180議席を占める。法律を通すことも、ままならないわけです」(同前)
「3月1日は韓国の独立運動の記念日『三一節』ですが、李氏はこの日に向けて強硬なメッセージを出すでしょう。日本に融和的な尹氏との差別化を図る作戦です。尹氏が沈黙を守れば『親日』のレッテルが貼られる。それを避けようと、尹氏も日本を攻撃せざるを得ないかもしれません」
「文在寅政権では、外交は北朝鮮政策に “従属” していた。中国に対しては、THAADミサイルを追加配備しない、アメリカのミサイル防衛に参加しない、日米韓の安保協力を軍事同盟にしないと約束する『三不政策』を採っていたが、李氏もそれを踏襲するはずです。尹政権が誕生した場合、北朝鮮や中国に対するスタンスも変わり、本来採るべき外交政策になるでしょう」
“共通の悩み” があるゆえに、日韓は手を取り合えると、前出の木宮教授が言う。
「バイデン政権は日韓との同盟を重視すると言っていますが、どこまでアジアに関わるのか100%信頼できるわけではありません。日韓にはアメリカにどう働きかけるかという共通のテーマがある。『悩みを共有して知恵を出し合い、協力すべきところは協力する』、そういう関係に持っていく必要があると思います」