勝負の世界に生きる多くのアスリートは、体のコンディションとともにメンタル面を整えることにも気を使う。
浦和レッズの槙野智章は試合に向かう当日、必ず自己暗示をかけている。
「自分に自信を持つための策です。『自分はできるんだ』『きょうの試合に勝てる』と唱えるんです。どんなストライカーと対峙するときも、『俺のほうが強い』と言い聞かせています。マーカーと対決している自分を想像し、勝つイメージを膨らませています」
サンフレッチェ広島ユース時代からずっと貫いているルーティンのひとつである。
自信の源は、毎日の練習からくるもの。常に全力で臨み、極限まで鍛えているからこそ、自分自身を信じることができるのだ。
そして、試合前は気持ちを高ぶらせ、ぴりっとしたままピッチに入っていく。
「緊張はするものですよ。無理にすべてほぐす必要はないのかなと。僕は持っている力を発揮するうえで、程よい緊張感を持つことは大事なことだと思っています。
プロでもアマチュアでもメンタルの持ち方は同じ。緊張は自分の実力以上の力を出すきっかけにつながります。練習でできなかったことが試合でできたりすることもあるので。練習でやってきたことに自信を持っていれば、緊張は力に変えることもできるはずです」
ただ、たとえ自己暗示をかけ、自信を持ってピッチに入ったとしても、重要な場面でミスを犯せば、精神的にこたえてしまう人もいる。
そのひとつのミスを引きずることもあるかもしれない。実際、槙野はどうしているのか。
「ミスをミスとは思わないこと。次のプレーに生かせばいいだけです。これはドイツで学んだこと。僕ら日本人は、一般的に『ごめんね』とか謝ってしまうけど、ドイツ人たちは違いました。気持ちの持ち方を変えるだけで、すぐに切り替えることができますから」
いまは強靭なメンタルを持ち、ピッチで堂々とプレーしている槙野も、少年時代はミスを繰り返しながら成長してきた。
「子どものときは、いっぱいミスをしたほうがいい。練習で気づけないことが、試合のミスから学べます。個人的な見解ですが、ミスをするほうが伸びしろはあると思っています。言い換えれば、ミスしない選手は成長しない。
成長したいのならば、チャレンジして数多くミスをしろと言いたい。100%通る横パスよりも、斜めのパス、縦パスにトライすることでミスも生まれます。そのときに、なぜうまくいかなったかを考えれば、新たな発見ができるので」
自身のメンタルコントロールができれば、仲間を励ましたり、チームを鼓舞する余裕も生まれてくる。
槙野は声を出すためにチームメイトたちの表情、仕草などを細かく見ている。
「一番簡単なようで一番難しい。ただ声を出せばいいというものではないので。タイミングが重要。そのためには、周囲をよく見る観察力が必要です。チームは生き物。ひとりの発言、行動ひとつで流れが一気に変わります。
だから、試合に集中できていない人がいれば、支えてあげるひと言をかけます。声を出すことで自分にプレッシャーをかけることにもなります。他人に物を言うからには、自分がしっかりしていないといけません。声を出すことで、自分自身も変われますよ」
勇気を持って、まず第一歩を踏み出すこと。何事もチャレンジである。ミスと失敗を糧に上り詰めてきた槙野は良いお手本だろう。
槙野智章のルーティン
(取材/文・杉園昌之)
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