開幕から6節まで先発出場を続けてきたが、中断を挟んでリーグが再開すると、スターティングメンバーに名前はなかった。
汰木康也は納得できないままベンチに座り、連勝するチームを複雑な心境で眺めていた。
「僕が外されたタイミングで勝ち始めたので、悔しさはありました。あのときは、メンタル的に難しい状態でした」
目の前の現実を受け入れるのは簡単ではなかった。コンディションも悪くなければ、パフォーマンスが落ちている感覚もないのだ。
あふれ出そうな思いをぐっと堪え、自らに言い聞かせた。
「メンタルを乱して、プレーに影響を及ぼしてはいけない。ここは我慢してやろうって」
リカルド ロドリゲス監督が取り組む新しいスタイルのなかで、いかに持ち味を生かしていくかを再考した。
ボールを保持することを大切にしつつも、仕掛ける姿勢は失いたくない。ピッチの外から見ているときも、絶えずイメージを膨らませた。
「自分が試合に出たら、ここで相手の怖がるプレーを出せるとか。サイドの高い位置でボールを持てば、やはり勝負していきたいので。相手からしても、ペナルティエリアに入って仕掛けて来られるのが一番怖いはずです。僕自身、そのプレーを消してはいけないと思っています」
プロ入り8年目。自らが貫いてきたプレースタイルには矜持がある。意識しなくても、体が自然と動く。
5月19日、YBCルヴァンカップ・グループステージ最終節の横浜FC戦。敵陣のペナルティーエリア左付近でこぼれ球を拾うと、鋭い切り返しで相手をかわし、右足できれいな弧を描くシュートをファーサイドのゴールネットへ流し込んだ。
「あの形から1本、点を取れたのは自信になりました。自分らしさを出せたと思います。あそこまで持っていく形は何回もありましたが、決めきることができていなかったので」
横浜FMユース時代から練習に練習を重ねてきた形だ。左斜め45度から右足でカーブをかけて沈める。昔から元フランス代表ティエリ・アンリのシュートを参考にしてきた。
いまでもゴールの動画を見て、イメージを確認する。練習で何本も成功させるより、試合での1本は何ものにも代えがたい。
「モンテディオ山形時代にも同じような形から決めていますが、あそこまできれいに入ったのは、プロになって初めてかもしれません。欲を言えば、ボールスピードがもっと速くて、サイドネットに突き刺さるほうがよかったですけどね」
シュートに持っていく形も完璧に近かった。
横浜FC戦で対峙したのは、昨季まで浦和レッズで一緒にプレーしていた岩武克弥だった。大原の練習場で何度も1対1の練習をしてきた相手である。
「浦和にいたときから、手こずっていたんです。岩武をかわして、点を取れたのも良かった。分かっていても、相手の足が届かない場所にボールを置けるのが、僕の持ち味」
今季の公式戦初ゴールを決めてからは余裕が生まれ、結果に結びつくプレーが増えてきた。3日後には9試合ぶりにリーグ戦で先発復帰を果たし、いきなり今季初アシストをマーク。得意の左足クロスで田中達也のゴールをお膳立てした。
チームとして取り組んでいるローテーションの動きを体現し、ゴールに結びつけたのは大きかった。
すると、続くサンフレッチェ広島戦でもアシストを記録。クロスボールに逆サイドの選手が飛び込むパターンは、リカルド ロドリゲス監督が求めていること。
「右クロスが流れて、左から折り返す形でアシストになりましたが、実は僕の飛び込みが少し遅くて……。もう少し早ければ、クロスに足が届いて、直接ゴールに押し込めていました。だから、アシストになってよかったと思わないようにしているんです」
細かい反省点はあるものの、汰木にとってゴールは良薬。昨季もアウェーのサガン鳥栖戦(20年10月10日)でJ1初ゴールをマークしてから、3戦連続で得点に絡んでいる。
「いい状態のときは、ぽんぽんと理想どおりのプレーを出せて、結果もついてくるものです。でも、それを継続しないといけません。1試合を通じて、必ずチャンスはくるので、1得点か1アシストは残し続けていきたい。そうすれば、もうひとつ上のステージにいけるはずです」
昨季は浦和2年目で初めて主力としてプレーした。
30試合(先発21試合)に出場し、1得点2アシスト。左サイドで存在感を示したが、底知れないポテンシャルを考えれば、まだ物足りない。
生粋の"仕掛け屋"はさらなる上積みを誓う。
「『あいつにボールを持たしてはいけない』と、警戒される存在になりたいんです。相手の注意を引きつけることができれば、ほかの味方も空いてきますから」
ドリブル突破の技術向上には余念がなく、いまでも研究を欠かさない。
最近はアストンビラ(イングランド)の10番を背負うイングランド代表ジャック・グリーリッシュが気になる存在。6月11日に開幕するEURO2020に出場する同世代の新鋭である。
「周りの人にぬるぬるしたドリブルが似ていると言われて、見るようになったんです。自分から仕掛けて、点もバンバン取っています。参考になるし、刺激にもなります」
ゴールに直結するプレーをさらに増やすことに意欲を燃やす。
6月13日にはヴィッセル神戸とのルヴァンカップ・プレーオフステージ第2戦も控えている。
「レッズに入ったときからずっと言っていることなのですが、シーズンを通して活躍し、タイトル獲得に貢献したいんです。プロになってからまだ一度もないので。タイトルがほしい」
伸び盛りの25歳の目はぎらぎらしている。どこまでもどん欲に戦い続けていくつもりだ。
(取材/文・杉園昌之)
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