"リカルドレッズ"を象徴するような、鮮やかで、美しく、エクセレントなゴールだった。
9月25日に行われたFC東京戦前半のアディショナルタイム。平野佑一のパスを受けた酒井宏樹が、GKの股下を抜いて逆サイドネットを揺らす。
酒井にとって、うれしい加入後初ゴール――。
そのダイナミックな飛び出しと、シュート精度はさすがだった。
平野のプレー変更とパスセンスも秀逸だった。
だが、個人的に目を見張ったのは、その前のプレーだ。
酒井からボールを預かった柴戸海が間髪入れずにくさびのパスを平野に打ち込んだのだ。
これが通った瞬間に、勝負あり――。
まさに相手にダメージを与えるようなワンタッチパスだった。
リカルド ロドリゲス監督が就任した今季、チームがボールとスペースを支配する攻撃的なスタイルに取り組むなかで、多くの選手が技術を高め、プレーの幅を広げている。
柴戸もそんな選手のひとり……いや、ある意味、最も成長を遂げた選手と言っていい。
「豊富な運動量、球際、デュエルは自分の一番の武器だと思っています」
18年1月の新加入選手記者会見でそう語ったように、柴戸のストロングポイントは守備面にあった。
そのため、今季の序盤はボールを握ることを前提とするチームのスタイルに苦しんでいるように見えた。
実際、2月、3月のリーグ戦におけるスタメンの機会はゼロ。ようやくチャンスを得たのは4月に入ってからだった。
ところが、4月3日の鹿島アントラーズ戦でリーグ戦初先発を果たし、試合出場を重ねるなかで、プレースタイルが変貌していく。
ビルドアップの際の立ち位置が絶妙で、ボールを受けてからのターンにも淀みがない。ちょっとした横パスにも相手を動かす狙いが感じられ、敵の急所をえぐるような縦パスも繰り出す――。
プロ4年目となるボランチは、指揮官の志向するポジショナルプレーのコツを完全に掴んだようだ。
こうした柴戸のフットボールインテリジェンスの高さに、指揮官も賛辞を隠さない。
「彼は今すごく学んでいるし、吸収している。高いレベルのプレーを見せてくれている」
柴戸はルーキー時代、同い年で流通経済大学から川崎フロンターレに加入した守田英正のことをライバルだと話していた。
明治大学出身の柴戸と同じくボランチを本職とし、ボール奪取など守備力を強みにしていただけに、刺激を受ける存在だったのだろう。
その守田は川崎のスタイルに揉まれ、ボールをさばく能力、立ち位置のコツを身につけてリーグ制覇に大きく貢献。日本代表にも選出され、2021年1月にポルトガルのサンタ クララへと旅立っていった。
水を開けられた形となった柴戸も今季、リカルド ロドリゲス監督との出会いをきっかけに、その才能をさらに大きく膨らませている。
だから、思わずにはいられない。日の丸を背負う時が近づいているのではないか、と。
今の柴戸は、それに値するだけのパフォーマンスを見せている。
FC東京戦の酒井宏樹のゴールシーン
(取材/文・飯尾篤史)
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