いまや新生レッズに欠かせないボランチと言ってもいいだろう。大卒4年目となる生え抜きの25歳。柴戸海の貢献度は計り知れない。
チームは3月までリーグ戦でわずか1勝と産みの苦しみを味わったが、中盤の底に背番号29が入るようになった4月から4勝2敗と勝ち越している。
「チームとしてボールを奪われても、すぐに奪い返せるようになっています。マイボールの時間が長くなったのかなと。自分が入ってから出せた違いの一つだと思っています」
いまでこそ手応えを口にするが、リカルド ロドリゲス新監督の目指すサッカーに順応するまでには少し時間がかかった。
もともとボール奪取力とスタミナには絶対の自信を持ち、昨季はリーグ戦でキャリアハイの25試合に出場。守備でのハードワークを前面に押し出す戦術が自らのプレースタイルに合致し、飛躍したのだ。
しかし、今季から指揮を執るスペイン人監督は自陣から丁寧にパスをつないでいくサッカーを標榜し、ボランチに求められる役割は大きく変わった。これまで守備力を売りとしてきた男はベンチからじっと観察し、自らに言い聞かせた。
「まずはボールを扱えて、失わないことが大事になる。それができなければ、試合には出られない。まずは自分のできないことをちゃんと受け入れて、できるようにしていこう」
トレーニングでは不得手なビルドアップにフォーカスして取り組んだ。
サイドバックに入っているときも、ボランチの立ち位置を細かくチェック。特に意識したのはポジショニングだ。練習から相手の立ち位置を見極めて、パスをもらうことを心がけた。
適切な距離感でボールを受ければ、余裕が生まれることに気づいた。すると、自然と味方の位置も把握できるようになり、スムーズにパスを出せるようになってきたのだ。
練習場にはいいお手本がいる。柴戸が目を向けたのは新戦力たちのプレー。リカルド ロドリゲス監督のお眼鏡にかなう選手たちである。
必死にヒントを探った。西大伍のボールの持ち方と受け方、小泉佳穂の両足をうまく使ったサイドチェンジとキープの仕方、明本考浩の走力と体力を生かしたプレーもそうである。
「僕の一番の長所はボール奪取や運動量よりも、人のプレーを見て盗むこと。その吸収するスピードは、誰にも負けないと思っています」
3月27日、YBCルヴァンカップ2節の柏レイソル戦でボランチとして初先発を果たし、翌週のリーグ戦でもスターティングメンバーに初めて名を連ねた。鹿島アントラーズ戦は不退転の覚悟で臨んだ。
「ここで結果を出さなければ、僕は終わりだという危機感を持っていました。あの試合に勝てたことは大きかった。取り組んできたことは間違いではなかったです」
試合を重ねるごとにビルドアップの質は高まっている。
10節のセレッソ大阪戦では自陣のペナルティーエリア内から前線の興梠慎三にグラウンダーの鋭い縦パスを通し、好機のきっかけをつくった。練習からトライしているパスが本番でも出せたことで、さらに自信を深めた。
「まだまだですが、徐々に良くなっています。進化しているところです」
昨季まではボール奪取力に長けたエンゴロ・カンテ(チェルシー)、ジョーダン・ヘンダーソン(リバプール)らを好んで見ていたが、最近よく参考にするボランチは、パス能力に優れたセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)だ。特に立ち位置などを勉強している。明らかに柴戸のプレースタイルは変化した。
YBCルヴァンカップ4節の湘南ベルマーレ戦でも目を引くプレーを見せている。後半途中、センターバックの岩波拓也から斜めのパスを受けると、ターンして相手をかわし、すっと前を向いた。そして、ドリブルでぐんぐんと前にボールを運び、相手最終ラインの背後に走る明本へスルーパスを通す。
「昨季までの僕だったら、あのまま下げるか、横パスでしたね。いい場所に立つことで余裕が生まれています。ボールが来る前に首を振って周囲を確認し、前を向けたことも、そして相手の裏にパスを出せたことも、自分の中では成長しているところだと思います」
凛とした表情には充実感がにじむ。
真摯に課題と向き合い、地道な努力を重ねてきたこともある。ただ堂々と胸を張ってプレーしているのは、それだけが理由ではない。レッズOBの鈴木啓太さんの言葉を聞き、考え方が180度変わった。
「YouTubeで『柴戸はもっと自信を持って、自分がこのチームの中心でやっていくという気持ちでプレーしたほうがいい』と話しているのを聞いて、本当にそうだな、と思ったんです」
意識が変われば、言動も変わる。今季は自信と自覚が芽生えた。ボランチとして追い求める能力も、どんどん欲張りになっていく。
「ゴール、アシストに絡めるようにならないと、ただの良い選手では終わってしまいます。相手にとって、脅威となるボランチでありたい。数字にこだわり、チームの中でもっと存在感を示していきます」
ひと回りもふた回りも大きくなり、レッズの大黒柱となることを固く誓う。夏に向けて、ピッチの上で進化していく姿を見せていくつもりだ。
(取材/文・杉園昌之)