試合を重ねるたびに存在感は増している。
9月18日に行われたJ1第29節のセレッソ大阪戦。10分、平野佑一から関根貴大へとつないだ素早い攻撃に合わせたのが江坂任だった。
「ボールを運ぶ段階で各選手がいいポジションを取っていたので、うまくボールが回っていました。そのなかで関根選手がいい状態で前を向けたので、自分も相手の背後にいいランニングができて、いいゴールになったと思います」
関根から出された斜めのパスを2列目の小泉佳穂がスルーすると、江坂はスピードを落とすことなく、ドリブルでゴール前に進入する。
後ろから追いかけてくるDFを体でうまくブロックし、絶妙なタッチでボールをコントロールすると、飛び出してくるGKを冷静に見て、右足でゴールへと流し込んだ。
電光石火——。
流れるような攻撃と江坂の決定力が成せるゴールだった。
川崎フロンターレを撃破したYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦。8分に岩波拓也からのロングパスに抜け出して決めた先制点を彷彿とさせる、ゴール前での駆け引きと巧さがあった。
江坂の存在感が発揮されているのは、ゴール前だけではない。
チームが後方からのビルドアップによって攻撃を組み立てるときには、中盤まで降りてきてスペースに顔を出すなど、“つなぎ”の部分でも大いに貢献している。
ときにゼロトップにも見える浦和レッズの流動的なシステムをうまく機能させているのが、江坂のポジショニングであり、運動量、プレーエリアの広さにある。
また、前線からの的確なプレスは、リーグ戦5試合連続でクリーンシートを続ける守備にも一役買っている。
やはりここでもトップ下を担う小泉との連動、連係が際立っている。
「2人の距離感と相手を背中でどう消すかというところだと思います。(プレスをする)スイッチのタイミングはお互いの距離とお互いのポジショニングを見ながらスイッチをかけられていますし、今はそこがうまくいっていると思います」
スイッチ役を担う江坂と小泉のプレスは、単なるプレスを掛ける“素振り”ではない。
本気とも言えるそのプレスが、チームとして相手を追い込む方向を限定し、ボールの奪いどころを明確にしてもいる。
守備でもそれだけの労力を使いながら、攻撃でも決定力を発揮するパワーを残している。その献身性がチームに好調をもたらしていると言えるだろう。
そして、現状に満足していないところも魅力のひとつである。
「ゴールを決められているところと、アシストができているところはいいことですし、それを求められていますので、勝てていることに関してはよかったと思います。ただ、今日の試合も含めて、まだまだ複数得点できた試合もあったので、そういうところを決め切ることができるチームにしていきたいと思います」
攻守に大きな存在感を発揮している江坂だが、根本にあるのは自らがゴールを決めるというストライカーの自負である。浦和レッズに加入して公式戦3得点をマークしているが、未だ複数得点はない。
1点では満足しない。その姿勢に江坂の真髄はある。
(取材/文・原田大輔)
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