以前にも書いたことがあるが、どんな状況であっても、川浪吾郎は笑顔を絶やさない。
今季、彼は1度も公式戦出場がない(6月15日現在)。辛くないわけがないはずだが「笑顔が僕の特徴ですから」と言って、川浪はまた笑う。
「自分が笑うと、周りも笑顔になる。そういう形でも影響を与えることができればいい」
実際、彼の個性は広島に好影響を与えていると、城福浩監督は評価する。
「(他の選手たちへの)いじり方や和ませ方とかを含め、今までのGKチームにいなかったタイプ。彼のような空気感を醸し出せる選手はとても大切です」
ただ、川浪の良さは笑顔だけではない。苦しい状況でも腐ることなく成長を求めるプロフェッショナルな姿勢も、彼の魅力である。
ゴールマウスの前に立つまで集中を高め、藤原寿徳GKコーチのキックに立ち向かう。1つ1つのセーブが、評価につながっていく(6月13日撮影)
宮崎キャンプ(今年2月)の頃、川浪はコンディション面で問題を抱えていた。「ついていくだけでやっとだった」と彼は振り返る。
そんな時、彼に声を掛けたのが池田誠剛フィジカルコーチだった。
「30歳になっても、身体は変えていけるし、もっと上手くなれる」
その言葉に、川浪は付き動かされた。
「もっと成長したい。徹底して自分を追い込むんだ。(池田コーチを信じて)やってみるんだ」
毎日居残って、池田コーチの個別トレーニングを受けた。お尻の筋肉強化から始まり、下半身・上半身と徹底的に鍛えた。
続けているうちに、「身体が強靱になっているだけでなく、GKとしての動きも向上していることに気がついたんです。身体とプレーはつながっているんですね」と川浪は手応えを感じている。
「試合に出れない現状はもちろん悔しいが、それも自分の実力。でも(練習で)充実感を感じているのも事実。もっと成長してチャンスを掴んだ時、自分の全てを発揮できるように、やるしかない」
決意を込めて、川浪吾郎は語った。もちろん、彼らしい最高の笑顔で。
川浪吾郎(かわなみ・ごろう)
1991年4月30日生まれ。茨城県出身。2011年、柏U-18からトップチーム昇格。以降、岐阜・徳島・新潟・仙台と移籍し、2021年から広島に加入。192cmというスケールを活かしたシュートストップが持ち味。2年目のFW鮎川峻が免許をとり初めて車で練習場にやってきた時、新車の天井の上にコーンなどの練習用具を載せて、イタズラっぽい祝福を敢行。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】