「森島くん、話聞かせてよ」
「いや、話すことはないっす(笑)」
もちろん、本気ではない。
どんな時でも取材を受けるのが、森島司という個性。要は筆者に対するイジリだ。
「いやいや、冗談ですやん。ちょっとしたボケですやん(笑)」
9月26日、快晴の札幌の空に若者の笑顔が眩しく映えた。
翌日の札幌ドーム、森島は55分から登場。ボールを受け、キープし、緩急のリズムをつくる。バタついていた広島が、あっという間に落ち着きを取り戻した。
「ハードワークはもちろん、試合の中でやるべきことをわかっている。彼が入るとゲームが落ち着く」(城福浩監督)
2-0の勝利に貢献した森島の笑顔は、前日よりもさらに輝いた。
仲のいい松本泰志(右)と共に笑顔で練習前のストレッチ(9月16日撮影)
この夏、森島司は不運続きだった。
7月11日の対横浜FC戦で肩を強打し、44分で途中交代。8月9日のJリーグ再開初戦(福岡戦)で復帰したものの、右膝を痛めてそのまま離脱。一時は「歩くこともしんどかった」(森島)。
それでも懸命の治療とリハビリで状態を整え、8月28日の大分戦で先発し勝利に貢献したものの、痛みが再発。再び離脱した。
根っからのサッカー少年、ボールを扱うトレーニングに笑顔もこぼれる(9月16日撮影)
実は横浜FC戦の負傷時は脱臼や骨折の疑いもあった。事実、試合後の城福浩監督は深刻な表情で「早々に(チームに)戻ってくることは難しいかもしれない」。また、右膝の故障時も「今季中に戻ってきて欲しい」と語り、簡単なケガではないことを示唆した。
だが、その予想はいい方に外れた。症状はそれほど重くなく、大分戦から約半月後の9月16日には、チーム練習に合流。そういう意味では、森島は幸運だった。
膝を負傷する2日前、8月7日の練習でボールを全力で蹴る森島。今はまだ、パワーを込めてキックすることは難しい。
だからこそ、早く試合に戻りたい。治療・リハビリはもちろん、膝への負担を回避するため、得意のプレースキックも封印。キックのパワーもコントロールして、回復を最優先に考えた。
森島の魅力は狭い場所でもボールを正確に扱える技術とパスを出して動く流れのスムーズさ、常に首を振って視野を確保するスキル。その長所をトレーニングで磨き続ける(9月16日撮影)
9月22日のC大阪戦で復帰し、14分のプレー。10月3日の対名古屋戦では先発で攻守に躍動した。
まだ痛みはある。治療も継続中だ。だが「痛みはあってもできるプレーはある」と10番はさらりと言う。
ルックスは甘いが、内面は強靱。福岡戦では度重なる激しいチャージにも平然と受け流し、厳しいプレーでやり返す。
背番号10・森島司。誇らしい広島の漢である。
森島司(もりしま・つかさ)
1997年4月25日生まれ。三重県出身。中学時代は名古屋の育成組織でプレーしていたが、高校選手権でプレーしたいと四日市中央工に進学。先輩に浅野拓磨(現ボーフム)がいるが、在籍時期は重なっていない。2016年、広島に加入。2019年、ワイドで試されていたが「自分はシャドーがやりたい」と城福監督に直訴。その熱意に指揮官が打たれてシャドーで起用すると、ACLでアシストを連発。5月26日の対浦和戦で1得点1アシストを含む全得点に絡む活躍でブレイク。2020年から背番号10を背負う。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】