「潰しにいける」
荒木隼人は確信した。感覚ではない。明確な理屈が存在した。
10月8日、名古屋後のオフ明け初めてのトレーニングはリラックスした中でのボールポゼッション。荒木隼人(黄色いビブス)も楽しそうにボールを追った
10月3日の対名古屋戦で荒木がマッチアップしたのは、ポーランド代表FWヤクブ・シュヴィルツォクだ。今年6月に行われたヨーロッパ選手権出場後に来日。9月14日のACL対大邱戦でハットトリックを決めるなど、爆発的な得点能力を持つパワフルなFWだ。
相手は手強い。だが荒木は全く臆することなく彼と対峙し、立ち上がりからほとんど前を向かせることなく、35分のシーンを迎える。
ジュニオール・サントス(白いビブス)との競り合い、絶え間ない首振り。リラックスゲームの中でも、荒木隼人(黄色いビブス)は自分を高めるため、トレーニングに集中する(10月8日撮影)
シュヴィルツォク、中盤までおりてボールを握った。その瞬間である。冒頭の「確信」が荒木を支配したのは。
「彼は背中で自分を見ていない」
背中で見るとは、気配を感じとるということ。この時、荒木はポーランド代表の反転力を警戒し、少し間をとっていた。だからなのか、FWの背中から警戒心が薄くなっている様子が感じ取れた。それが、確信の根拠だ。
トレーニングの合間にハイネル(右)と談笑する荒木。簡単なポルトガル語は、多くの日本人選手も話せる(10月8日撮影)
シュヴィルツォクがボールを置いた場所は、彼の足下から少し離れていた。狙いはここ。一気に左足を大きく伸ばしてボールをつついた。予測できていなかったFW、為す術がない。ボールはそのまま、彼の身体から離れた。
ルーズボール。名古屋のボランチ・長澤和輝が拾いにくる。
させない!覚悟のスライディングタックル。
「球際は絶対に強く。力ずくで、持っていけっ」
そんな荒木の決意がこもった右足はボールを見事に刈り取った。このボール奪取が浅野雄也のゴールに直結し、シーズン19試合完封(史上最多)の堅守・名古屋から先制点を奪った。
「大学・プロを通して、初のアシストです」
照れ笑いする背番号4は守備でも輝く。シュヴィルツォクを完璧に抑え、前田直輝の強烈なシュートを脳天でブロックして昏倒しても、相手の足が再び脳天を叩いても、平然と立ち上がった。
名古屋戦のMVP。筆者なら荒木隼人を選択する。
荒木隼人(あらき・はやと)
1996年8月7日生まれ。大阪府出身。G大阪の育成組織で育ったがG大阪ユースへの昇格はできず。2012年、広島ユースに加入し、3年時にはキャプテンも務めた。2015年、関西大に進学して高い評価を受け、2019年に広島加入。その年のACLで高い評価を受けてポジションを勝ち取ると、以降は不動のリベロとして広島の堅守に貢献している。兄貴分として若手の信頼を集めている一方、スポーツビジネスを学ぶなど自分を高める勉強も欠かさない。
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