読者のみなさんによる多数決で決まるMVPに対し、「裏」はどうしようかと考えた。出場試合数や勝利への貢献度とは別に、期待度の高さや印象的な出来事などをピックアップした「裏MVP」は、読者の様々な視点が垣間見えて面白かった。
例えば、広島を4年間率いて若手育成などに力を発揮した城福浩前監督を推す声。
城福浩監督と言えば熱量の高い叫びが印象的だが、一方で選手の言葉を聞く姿勢も忘れなかった。昨年10月9日、野津田岳人が自分の評価と起用されない理由について聞きに行った時、指揮官は笑顔で彼を迎え入れ、その10日後の神戸戦、彼は広島で初めてボランチで先発。今季の甲府での活躍はここから繋がっている
常に全力で、声を張り上げて選手を鼓舞していた。時々暴言っぽくなるのもご愛嬌。選手への愛が溢れ過ぎてて微笑ましかった。胴上げして欲しかった。
SB補強無しで4バック変更で例年と異なるキャンプ調整方法やシーズン中のぶっつけ本番の布陣変更や迷采配といろいろ有ったけど、成績は毎年下降でしたが4チーム降格する異例の今シーズンなのにACL組より過酷な17連戦組ませられた中で残留を決めてくれた事に感謝です。
例えば、試合にほとんど絡むことができなかったが、練習でしっかりとチームを鼓舞し、若者たちを支えてくれていた清水航平を称える言葉。
11月19日、清水戦の前日練習にて。どんな立場に立たされても明るさと練習に全力投球する姿勢を、清水航平は忘れなかった
スタメン、ベンチ入りもないけど…おそらくながら…練習場やプライベートなどで選手間の繋ぎ役や盛り上げ役などでチームの雰囲気をいい感じにしてくれてたと思います。(中略)広島愛にあふれる清水航平選手ならではであると思います
まさにその通り。練習が新型コロナの影響で見学できなくても、彼の人柄を知るからこそのエールだ。こういう声が少なくなかった事実からも、読者の方々のチームへの愛情の深さがわかる。
本文中には紹介できなかったが、チームのコンディション維持と向上に大きく貢献し、今季限りで退任する池田誠剛フィジカルコーチの存在をあげる声も少なくなかった(11月30日撮影)
本当に様々な意見がある中で「熱闘サンフレッチェ日誌」としては、2021年裏MVPに鮎川峻の名前をあげたい。理由は、偉大なる佐藤寿人、そして浅野拓磨以来待望久しい若き日本人ストライカーが台頭してきたということ。サポーターにとってそれが、来季への光となったからだ。
読者の声をご紹介しよう。
今期のサンフレFWの中でもゴールへの気持ちが1番感じられた。サポの目には希望の光として映った!他のFWや選手の気持ちを奮起させたであろう!
試合前の練習で青山選手からの縦パスに合わせる練習をしていて、青山→鮎川のホットラインへの妄想が爆発しました。
今季最大の成長株・藤井智也(手前の赤ビブス)のダッシュに反応して裏を伺う鮎川峻(中央の赤ビブス)。荒木隼人との駆け引きも成長への糧(11月19日撮影)
2020年、チームで唯一、公式戦出場チャンスを得られなかった鮎川が、2021年の開幕戦(2月27日・対仙台戦)に出場。
負傷離脱なども経験しつつ、12月4日の最終節(徳島戦)は先発でプレー。19試合出場1得点と数字は物足りないが多くのチャンスに絡み、「将来は本格的なストライカーに成長してくれるのでは」と期待を抱かせたシーズンだった。
かつてチーム得点王に何度も輝いたこともある森﨑浩司アンバサダーは、後輩の可能性にこう言及した。
「動きの質はいいし、ハードワークもできる。確実に味方に繋ぐ意識もある。あとは得点をあげるだけ」
チームの動きに連動して荒木にプレッシャーをかける鮎川(赤ビブス)。ボールを失ったその瞬間からの奪回を目指すスキッベ新監督のスタイルに、鮎川の守備意識と運動量はフィットするはずだ(11月19日撮影)
実際、最終戦でエゼキエウがクロスからゴールを決めた時、その後ろにはフリーで彼がいた。いい場所には立てている。あとは、決めるだけなのだ。
身長は164センチ。だが、小さくても得点をとれるのは、鮎川が尊敬する先輩・佐藤寿人が証明ずみだ。確固たるストライカー不在の状況も、2005年に寿人が広島にやってきた時と似ている。
「目指すところはゴールだけ。結果を残して、チームを勝ちに導きたい」
広島のエースは、鮎川峻。そう言える日を誰もが心待ちにしている。
鮎川峻(あゆかわ・しゅん)
2001年9月15日生まれ。愛知県出身。FCフェルボール愛知から広島ユースに進み、2年生から活躍。2018年、ユース年代日本一を決める高円宮杯プレミアリーグファイナルで、東俊希のクロスをヘッドで叩き込んで先制点をあげ、日本一に大きく貢献した。いつも物静かではしゃぐこともないが、一方で居残りトレーニングの常連。日々の研鑽が2021年の成長につながった。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】