常に評価眼が厳しいクラブレジェンド=森﨑和幸CRM(クラブ・リレーション・マネジャー)が、藤井智也についてこう語った。
「2021年、最も成長した選手。仕掛けもあるし守備のアプローチも早くて、1対1も強くなった。相手が(浦和の酒井宏樹選手のような)ビッグネームでもビビらないメンタルもいい」
実は森﨑CRMと同じような言葉が、読者のみなさんから頂いたアンケートの中にもあった。
基本のヘディング練習でもしっかりと集中。藤井智也の成長は日々の努力の積み重ねだ(10月8日撮影)
試合をこなす度にチームへの貢献度が上がっていった。
成長度合いNo.1
藤井選手の成長がまんまチームの可能性につながっている
彼の場合、成長が本当にわかりやすい。
前田大然(横浜FM)と張り合うことのできる圧倒的なスピードは、昨年から認知されていた。だが、そのスピードが効果的に機能しない。突破してもクロスが中に合わず、アシストも得点も記録できない。
「守備から入るという意味も、わからなかった」と彼自身が言うほど、守備に対する意識やスキルは物足りなかった。
真夏の炎天下でも居残り、必死にクロスを入れ続ける。その成果は4ヶ月後の最終節におけるアシストとして現れた(8月7日撮影)
4月7日の横浜FC戦では試合に出られず、悔しくてロッカーで泣いた。だがここで彼は「泣く程、俺は頑張っていたのか」と考える。
迫井深也コーチから「何がしたいのかわからないのなら、とりあえずスペースを見ろ」と言われ、愚直にやり続けた。沢田謙太郎コーチ(当時)のサポートのもと、クロス練習をやり続けた。そして城福浩監督(当時)は努力を認め、藤井をずっと試合で使って経験を積ませた。
最終節の徳島戦、強烈なボレーでプロ初得点を決め、完璧なクロスでエゼキエウのゴールをアシスト。守備でも激しい上下動と熱い球際で相手を封じて勝利に大きく貢献した。
試合後に泣いたあの日から約1ヶ月後、メンタルを立て直した藤井の表情は明るく、言葉もポジティブ(5月17日撮影)
今や、読者からこんな評価を受けるまでになった。
サイドを何度も突破する姿勢に感動しました!攻める時は攻めきって悪い奪われ方をしない所も経験者だからこそ分かる評価ポイント。特に浦和戦での酒井宏樹選手とのマッチアップが今季で1番見入ってしまいました!守備においても戻りディフェンスで奪うシーンはとても魅力的で、彼がいるから攻守において勢いと安定感が増していたように思います
もちろん、課題も多い。
狭いスペースのトレーニングでもっともっとボールを受け、技術や精度、戦術眼を磨く必要はある(10月22日撮影。中央の赤いビブスが藤井)
「全てにおいて精度はもっと磨かないといけないし、試合の流れを読んでのポジショニングも身に付けてほしい。来季は必ず研究されるので、プレーのバリエーションも必要になる」(森﨑CRM)
厳しい指摘。だが、きっと大丈夫だと思うのは、彼のこの言葉を聞いたからだ。
「うまくいかない時でも使ってくれた城福さんをはじめ、沢田さんや迫井さんには感謝しています。そういう支えてくれた人たちのために何かがしたいと思えたから、自分は成長できた」
感謝の想いは未来へのエネルギー。だからこそ、2022年も藤井智也に期待したい。
藤井智也(ふじい・ともや)
1998年12月8日生まれ。岐阜県出身。立命館大進学後に頭角を現し、3年時は関西学生リーグでアシスト王とベストイレブンを獲得。大学4年生の昨年春、広島に内定。圧倒的なスピードを武器にポジションを獲得し、ルーキーイヤーの2021年は28試合出場1得点2アシスト。趣味はサウナ。8分入って1分水風呂、そして外気浴のセットを3回繰り返しつつ、黙考するのがお気に入りだ。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】