平均失点1.11点。0点台が7チームも出るという守備的な2021年のJリーグにあっては決して突出した数字ではないが、それでも十分にレベルが高い。
降格した4チームは平均1.45失点以下と守備に苦しみ、この4チーム以下の失点数を喫した残留チームは柏(1.46/平均)だけ。堅守こそJ1残留の第一条件であることは間違いない。
シンプルなヘディング練習を集中してやることが成長への道筋。最後、ハイネル(中)には苦笑された“ご愛敬”も(11月30日撮影)
それがわかっているからこそ、最終ラインに対するファミリーたちの信頼は厚い。読者が選ぶMVPは1位が佐々木翔で2位は荒木隼人。彼らに野上結貴を加えた「鉄板」と呼ばれた3枚のDFは今季も広島を救った。
特に若手のリーダー格である荒木に対しては将来への期待もさらに大きい。アンケートでも
「かつて千葉和彦選手がそう呼ばれていた《アジアの壁》を引き継いでもいいのではないかと思うくらいの安定感と責任感を感じる」
というコメントがあったり、
「フォアザチームで戦う紫の鉄壁」
という高い評価もあった。
だが、荒木自身は「今年は成長が鈍化しているように感じた」と語る。
今季で定年退職するドライバー兼用具係の大西安則さん(左の黒いジャージの方)にジャージを渡す時に荒木は一礼。こういうちょっとした仕草に、彼の人間性が現れる(11月30日撮影)
「ビルドアップのところが特に。チームとしても個人としても、普段の練習からもっと意識高くもってやらないと、試合では勝てない」
特に先発して唯一、途中交代を余儀なくされた鹿島戦(11月3日)は彼にとって屈辱的な試合となった。
沢田謙太郎監督の初戦であり「絶対に勝ちたい」と意気込んだ試合で4失点中3失点に直接関与。72分に交代を告げられた時は涙が止まらなかった。
「申し訳ない。情けない」
翌週の湘南戦、試合に出ることへの恐怖心は確かにあった。だが、沢田監督は彼にキャプテンマークを贈ってピッチに送り出す。
「キャプテンとしての責任を感じた。気持ちがさらに入った」
ホワイトボードを使って沢田謙太郎監督(当時)が語るプレービジョンを真剣に聞く荒木隼人(左から3人目)。ルーキー時代からお世話になった指導者に対する想いは強かった(11月30日撮影)
前半に柴﨑晃誠が退場して10人になり、数的不利を余儀なくされても闘志は衰えない。
荒木に代表される迫力に満ちた守備によって勝ち得た勝点1に対し、
「よく、鹿島戦から持ち直した荒木選手は素晴らしい」
「選手がチームの為に闘っているのが伝わってきました」
というコメントがあったほど、見ている側にも感動を与えた。
プロ選手がピッチの上で涙を流すのはどうか、という声もある。しかし、こういうコメントもアンケートでは頂いた。
「鹿島戦、いつもチームを助けてくれる荒木選手が泣いて悔しがっているのを見て、同じような気持ちになった」
「ミスが重なり大量失点した試合、荒木選手の涙を流しながらの交代はサッカーに対する本気さを感じました」
ファミリーの温かな愛情を力に変え、荒木隼人は来季の飛躍を誓う。
リラックス目的のシュート練習での1シーン。こういう時でも、荒木隼人(右から3番目)にはしっかりと声を出してチームの雰囲気を盛り上げてほしい(11月18日撮影)
「今季の前半は(川辺)ハヤオくんにチームを牽引してもらっていた。でももう、ハヤオくんはいないし、自分がやるしかない。新監督のもとでリーダーシップを発揮して、結果を残し、日本代表にも入っていきたい」
紫のファミリーたちの期待も、そこにある。
荒木隼人(あらき・はやと)
1996年8月7日生まれ。大阪府出身。G大阪の育成組織で育った後、2012年に広島ユース加入。2015年、関西大に進学して以降評価を高め、2019年に広島のトップチームに加入。広島ユース出身者が大学経由でトップチームに昇格したのは茶島雄介についで2人目。ルーキーイヤーのACLで高い評価を受けてポジションを勝ち取ると、以降は不動のリベロとして貢献している。結婚して家庭を持つことを望んではいるが、なかなか「いい出会いがない」と本人は言う。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】