(写真:自宅への訪問診療を行ってきた東大阪生協病院)
「これまで7人の自宅へ診察に向かいました。すると、やはり多くの患者さんが重症化してしまっていたんです。自宅に置いておくわけにはいかないので、保健所にかけ合いました。なんとか5人は入院につなげられましたが……」
そう語るのは、東大阪生協病院事務長の吉永哲弥さんだ。
4月27日発売の女性自身で報じた新型コロナウイルス変異株の脅威。大阪府ではコロナ重症患者向けの病床使用率が100%を突破しており、その影響で軽症や中等症患者向けの病床も逼迫。「今後は重症化しても病院で治療を受けられず、自宅でただ死を待つだけといったケースが激増しかねない」という医療現場からの悲鳴を伝えていた。
だがその指摘は、すでに現実のものとなり始めている。
5月7日時点で大阪府が公表しているコロナの重症病床使用率は159.4%。自宅療養患者は1万3千650人で、入院調整中の患者は3千169人にものぼるという。そして死者数は過去最多の50人を記録した。
そんななか、東大阪生協病院では自宅待機患者への訪問診療を行ってきた。吉永さんが続ける。
「本来なら保健所が自宅待機中の患者に毎日連絡して容体を確認したり、病院への入院調整をすることになっていました。しかし患者の数が増えすぎた結果、保健所はパンクしてしまったのです。
患者から保健所に連絡したとしても、何日も放置されてしまう。かといって病院に連絡をしても『満床なので保健所に相談してください』と言われ、たらい回しにされてしまいます。今の大阪は、そういう“病院に行きたくても行けない患者”であふれかえっているような状態です。
うちの病院も人手は足りないのですが、目の前の患者さんを見捨てるわけにはいきません。だから本当に重症の人には、可能な限り対応しているんです」
吉永さんは実際に起きたこととして、大阪府に住む高齢夫妻の事例を教えてくれた。
■10日経過すると、ひどい状態でも退院させられる
まず最初に、夫・Aさん(69)の感染が発覚。容体が急変し、意識不明の状態となった。妻のBさん(69)は何度も保健所に入院をお願いし続けたが、「ベッドに空きがない」と断られ続けた。
このとき、東大阪生協病院がたまたまBさんに連絡したことで事態を把握。医師が自宅に駆けつけ、なんとか最悪の事態は免れた。当時、Aさんは酸素吸入が必要なほどの状態だったという。
そして、さらに事態は悪化していく。今度はBさんの感染が発覚したのだ。このときも吉永さんらが保健所にかけ合ったおかげで入院できたものの、Bさんは翌日に人工呼吸器をつけなければならないほどの重症だったという。
つまり自宅待機を余儀なくされたことで夫の症状が悪化し、さらに妻にも家庭内感染が広がったということだ。また、退院にも問題が。吉永さんが語る。
「保健所の基準では感染から10日が経過すると、自動的に“コロナは治った”と判断されてしまうんです。そのため患者はどれだけひどい状態でも、コロナ患者受け入れ病院から早期に退院させられてしまいます。
実際にBさんは退院する段階で、まだひどい肺炎の症状が残っていました。そのため、今はうちの病院に転院してもらっています」
大阪での医療崩壊が深刻化するなか、現場の奮闘が患者を支えている――。
「女性自身」2021年5月25日号 掲載