「新型コロナウイルスに起因する生活不安やストレスなどにより、DV(ドメスティックバイオレンス)の増加や深刻化が懸念されております」
10月8日の参議院内閣委員会において、林伴子内閣府男女共同参画局長はこう答弁した。この問題は、新型コロナウイルスの“第3波”によって、より深刻さを増す可能性が高い。
全国の「配偶者暴力相談支援センター」に寄せられた5と6月のDV相談件数は、前年比でそれぞれ1.6倍増で計約3万5,000件。続く7と8月も、それぞれ前年比1.4倍増で計約3万2,000件。
コロナ禍の終息がみえない中、内閣府が懸念するように、今年は配偶者ら家族を苦しめるDV件数が、前年を大きく上回ることになると予想される。
そしていま、DV以外にも配偶者たちを苦しめている問題が急増しているーー。
コロナ以降、社会を取り巻く生活環境は激変した。不安やストレスを抱えた夫や妻が“ある日突然”、統合失調症や双極性障害、そしてうつ病といった精神疾患を発症するケースが増えているという。
「コロナ禍という環境が原因だと断定できる統計資料はまだありませんが、“夫が急変してしまった”という配偶者からの相談件数が増えているのは確かです」
こう語るのは、杏林大学保健学部作業療法学科の助教で、「精神に障害がある人の配偶者・パートナーの支援を考える会」(配偶者の会)の代表を務める前田直さん(41)。
同会は、精神に疾患がある人の配偶者やパートナー同士が話し合える場として、’16年6月に設立された相談支援組織だ。これまで相談を受けたのは400人以上。そのうち6割は女性で、主に30〜50代からの相談が多いという。
「保健所や自治体などの相談窓口では、精神疾患のある当事者の話が基本です。どういう支援が必要かという話はしてくれますが、配偶者からの相談を親身に受けてくれるところは、残念ながら多くありません」
現在、精神疾患の患者数は400万人超で、そのうちの約100万人が結婚しているという。男女比を1対1と仮定した場合、精神疾患の夫を持つ妻は50万人いるということになる。
「配偶者の会は、なぜ夫や妻が精神疾患病を発症したのか、その原因を考える会ではありません。配偶者たちが、いま困っていることについて、具体的にどうしていけばいいかを話し合う集いの場です」
前田さんによると、当事者を支え続ける配偶者やパートナーたちが直面する苦労や困難は、想像を絶するものだという。
精神疾患を持つ人の配偶者たちにとって大事なことは、“自分は孤独じゃない”と知ること。
「誰かと共感できる場を持つことが重要です。自分の話を聞いてもらう、そして人の話を聞く。情報を共有することで、自分が悩んでいることを、相対的に理解することができるからです。そして、切実な悩みを同じ立場の人たちに打ち明けると、専門家や自治体の窓口で聞くのとはまったく違った角度の話ができる。“自分がどうしたいのか”という発想が生まれますから、不安の重荷から少しでも解放されるヒントを得ることができるのです」
「女性自身」2020年12月1日・8日合併号 掲載