辞表提出の25日に閣議に臨んだ小此木氏と菅首相。小此木氏はこの閣議後に「IR反対」を表明した
「父・小此木彦三郎氏は神奈川県選出で、通産相、建設相を歴任した大物国会議員でした。その秘書として仕えていたのが菅さん。つまり、八郎氏は菅さんにとって旧主の息子なんです」(横浜市議会関係者)
6月25日、小此木八郎国家公安委員長(56)の辞表を受け取った菅義偉首相(72)は「まさかお前が……」という気持ちだったに違いない。
辞任と同時に、小此木氏は8月22日に投開票される横浜市長選挙への出馬を正式に表明し、「横浜へのIR誘致を取りやめる」と明言したのだ。
横浜市は菅首相の地元。首相に近い林文子・現市長が2019年8月に山下埠頭へのIR・カジノ誘致の方針を表明するなど、菅首相にとって「横浜への全国初のIR誘致」は第2次安倍政権下での官房長官時代からの肝煎りだった。
「小此木氏の出馬には “横浜のドン” と呼ばれる地元の有力者・藤木幸夫氏の存在が大きいです。横浜港ハーバーリゾート協会会長も務める藤木氏は、山下埠頭へのカジノ誘致に対する反対派の急先鋒です。
彼が反対派なのは “菅・林連合” が計画するIRでは自らへのうま味がないから。藤木氏は長年、小此木氏を支えており、手下の政治家に “反・菅” の旗を振らせたというわけです」(政治部デスク)
ただ、小此木氏にとっても市長選出馬には、複雑な思惑があったという。前出の横浜市議会関係者は語る。
「横浜市長選は父・彦三郎氏が『出たい』と語っていた “親父の夢” なんです。そこに本人の事情も加わりました。かつての八郎氏は、いま自民党内で冷や飯を食わされている石破茂氏に近い議員でした。そんな彼が閣僚に就けたのは、父を慕っていた菅さんの後ろ盾があってこそ。
しかし、その菅さんが新型コロナウイルス、五輪で窮地に立ち、早々に退陣することになれば、今後、国会議員としての前途は厳しくなる。『それならいっそ、父も憧れた地元の首長を目指そう』と、八郎氏は考えたのでしょう」
菅首相は褒美を与えたばかりの“腹心”に裏切られたということになる。6月7日付の「読売新聞」の世論調査では、菅内閣の不支持率は50%と、もはや “死に体” 状態。そこに “小此木の乱” まで起こり、政権与党のトップとしての統制力を失いつつある。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は話す。
「総選挙、総裁選を控える“東京五輪後”を考えなければならない大事なときに、側近といわれる人が思惑どおりに動いてくれない。さらには細かく目をかけてきた地元・横浜を掌握できずに“分裂”を起こしているのは、首相自身も相当歯がゆいはずです」
それだけではない。菅首相はさらに地元をかき回されそうだという。小此木氏の辞職で欠員が出る神奈川3区に、麻生派の中西健治参議院議員(57)の、衆議院への鞍替え出馬が浮上しているのだ。
「麻生太郎財務相は “深夜会食問題” で最側近の松本純議員(神奈川1区)が離党した自派の穴を埋めたいんです。そこで中西氏を小此木氏の後釜に据えようと、もう一人の “神奈川の大物” である甘利明・元経産相と一緒に情報戦を仕掛けています。
首相は中西氏の出馬について『誰がそんなことを言っているんだ』と怒っているとか。ただでさえ弱っているところに、党内の派閥争いで、首相は地元に手を突っ込まれている状態なんですよ」(政界関係者)
本誌はかつて、菅首相に近い神奈川県選出の小此木氏、河野太郎氏、小泉進次郎氏の3議員を「神奈川三郎」と称したことがある。残る「二郎」たちに見限られるのも、時間の問題かもしれない……。
(週刊FLASH 2021年7月13日号)
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