「落ち着いた性格で、成績もよかったです。うちは中高一貫の学校ですが、彼は高校から入ってきたいわゆる“高校入学組”。
部活には入っていませんでしたが、友人もそれなりにいて、生徒会選挙に立候補したり、修学旅行の委員をやったりと、学校行事には活動的に参加する学生でした。
進学校なので、成績上位の学生にはどうしても教師や親から期待が寄せられます。そのプレッシャーはあったのかもしれませんね…」
容疑者の少年を知る、愛知県内の進学校の同級生は、困惑を隠しきれない様子でそう語った。
1月15日、それは全国の大学受験生にとって、もっとも緊張する日。大学入学共通テストがおこなわれたこの日に事件は起こった。
朝8時半ごろ、東京メトロ南北線赤羽岩淵方面行きの車内。東大前駅に到着しようとする車両内で、ひとりの少年が持っていたリュックサックをおもむろに床に置くやいなや、そのリュックから液体が染み出した。異変を察知して逃げ出す乗客を尻目に、東大前駅で少年は下車。持っていた別のバッグから着火剤のようなものを取り出すと、駅の構内を移動しながら4カ所で火をつけた。
東京メトロの広報課長は、事件当時の様子をこう語る。
「駅員はすぐに異変に気づき、消火器で消火に当たりました。火がつけられたのは爆竹のようなもので、大きな火にはならなかったのが不幸中の幸いでした。犯人は黒の詰め襟の学生服を着た短髪の男でした。受験生と見られる利用客もたくさんいたので、現場は緊張と不安に支配されていました」
少年は駅から逃走すると、駅から出てすぐの東京大学農学部がある弥生キャンパス前で、通行人3人を次々に持っていたナイフで刺した。刺されたのは、大学入学共通テスト関係者とみられる男性(72)と、ともに共通テスト受験生の高校3年生の男女だ。
「道路に出たら何台も消防車やパトカーが来ていて、女性が足を投げ出して倒れていたんだよ。正門の左側には若い男がうずくまっていて、何人もの警察官が取り囲んで『どこから来たんだ! 何やったんだ!』と怒号を浴びせていた。男は何も答えないまま、パトカーに乗せられていった」(近隣の住民)
共通テストのためにキャンパスに向かっていた受験生も、驚きを隠せない。
「交番の中で70歳くらいの男の人がぐったりしていて、血が出ている左手をおさえていたんです。びっくりしましたが、気にしないようにして試験を受けました。1科目めの試験が終わってからニュースサイトで事件のことを知って、血の気が引きました。もしかしたら自分も危なかったのかもしれないと思うと…」
現行犯逮捕された少年(17)は容疑を認めており、「医者を目指していて、東大に入ろうと思っていたが、1年前から成績が落ちて悩んでいた」「勉強がうまくいかなくて、事件を起こして死のうと思った」と供述しているという。
前途の期待される若者が起こしてしまった凶行。なぜ自身の悩みに、他人を巻き込んでしまったのか…。
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