今週日曜日、ヨーロッパの夏時間が終わる。
EU諸国は、午前3時に時計を一斉に1時間遅らせて午前2時に設定する。その日は、1日が25時間になるから、いつもより少しだけ長い睡眠をとって冬時間に移行するのだ。
2019年、欧州会議はサマータイムを2021年で廃止する案を可決し、もう2度とサマータイムを導入しないはずだった。しかし、その後の協議はコロナの影響や政治の対立などで止まったまま。今後、夏時間と冬時間のどちらを使うかは各国の判断にゆだねられるが、どの国も対応をほとんど決めていない。
気象予報士の白戸京子さんがこう話す。
「サマータイムは、夏になったら時計を1~2時間進めることで、長い日照時間を有効活用する仕組みです。省エネルギー効果も高いとされ、欧米や中南米、南半球など70カ国以上で採用されましたが、これまでの歴史を見ると、結局は廃止した地域が非常に多いんです。
夏の日照時間が冬より長くなる高緯度の地域では効果もありますが、緯度が低いアジアやアフリカでは、年間を通じて日照時間があまり変化しないため、ほとんど意味がありません。むしろ、時計の針を進めたり巻き戻したりの作業が煩雑なだけです」
世界に先駆けてサマータイムを導入したのはカナダで、今から100年以上も前の1908年のことだ。そして1916年、第一次世界大戦下で電力不足に悩むドイツとイギリスで採用され、各国に一気に普及した。
その後、制度をやめる国が増えたが、原油価格の高騰した1980年、オイルショックによる省エネ目的で世界的にサマータイムが再開された。
アメリカは、第1次世界大戦や第2次世界大戦中など、細切れで50年以上サマータイムを続けているが、2015年以降、29の州が変更や廃止を審議している。オーストラリアも、生活に合わないなどの理由から過去に導入と廃止を繰り返し、現在は一部が実施しているのみである。
実は日本でも、戦後の1948年から1951年まで、GHQの指示によりサマータイムが導入されたが、不評ですぐに廃止となった。今年はオリンピックの開催に合わせ、競技時間の前倒しを狙った再導入が検討されたが、これは世界的に廃止の流れが強いなか、珍しい傾向といえる。
「最近は、世界的にサマータイムへの批判が大きくなっています。仕事の生産性が下がる、事故が増えるなどいろいろ言われますが、特に寝不足やメンタルヘルスへの悪影響、心臓発作や脳卒中のリスクを高めるなど、健康への弊害が強く言われるようになりました。
EUを離脱したイギリスでは引き続き年に2回の時間調整が続けられます。しかし、もしアイルランドがEUに従って制度を廃止すれば、アイルランド島の南北で半年間だけ時差が生じることになります。アイルランドの外交官が『事態は思ったより複雑だが、コロナ禍で優先度が低いなか、打開策は少ない」とコメントしたことが報道されています」(白戸さん)
ヨーロッパでは8割の人が制度廃止を支持したというが、現状、多くの国で、半年先に時計の針を早めるのかそのままなのか、誰もわからないまま冬時間に突入してしまう。グローバル化が進むなかで、思わぬ事態が起きているのだ。
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