コロナ禍で変化したコミュニケーションの形。外出しづらく不安になりがちな今こそ、その本質や人間関係を見直すことで心の安定に努めよう。AERA 2020年11月16日号から。
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コロナ禍で人間同士のコミュニケーションの形態が大きく変わりつつある。これまで「人と人との距離は近いほど良い」が当たり前だった。しかし、いまは正反対だ。実践コミュニケーショントレーナー・西田弘次さん(55)の元には、ソーシャル・ディスタンス下の人間関係に悩む学生、社会人からの相談が後を絶たない。どうすれば「人と物理的距離を保ちながら、心の距離を近くできるか」と多くの人が悩んでいる。
西田さんは、大前提としてコロナショックは日本だけでなく世界が直面している非常事態であり、まずは社会を渡る上で「良いことも、悪いこともある」と、割り切って受け入れることが必要だと考えている。
「確かに新型コロナは未知のウイルスで、特効薬やワクチンもまだありません。ただし、はっきりしているのは『いつか終息する』ということです。それに、人間のコミュニケーションの本質が、コロナによって劇的に変わることはありません。答えのない時代と言われるが、私はすでに答えはあると思っています」
大手旅行会社で働く営業職の男性(35)は、「人と接することが大好きで営業という仕事を選んだ。これまで対面営業を続けてきたが、突然デジタルになり、どうしていいか困惑している」と相談を持ちかけた。
西田さんは、コミュニケーションがうまくいかない理由は、多くの場合、コロナとは別にあると考えている。アナログでうまくやれている人は、デジタルでもうまくやれているからだ。つまり、コミュニケーションがうまくいかないのは、コロナ禍やデジタル化が問題の本質ではないというのだ。
「大切なのは、相手の立場に立ち、普段から気持ちのこもった言動を心がけているかどうか。まずは自分を振り返ってみることが大切です。その上で、デジタルとアナログの特徴を整理してはどうですか」
コミュニケーションの最大の目的は「情報伝達」と「感情共有」。デジタルは、「情報伝達」には非常に長けたツールだ。上手に情報を選別しさえすれば、有効に利用できる。けれども、体験や実感に欠けるデジタルでは、「感情共有」に限界がある。うまくいかないケースの多くは、その両方の特徴を把握せず一緒くたにしてしまっているのではないか。そう分析した上で、次のようにアドバイスをする。
「改めて自分と他者との関係を見つめてください。うまくコミュニケーションができる人は、必ず人間関係を良好に築く言葉を使っています。話し言葉を中心とするアナログでは意識しづらいですが、デジタルはしっかりと文字が並ぶので、自分の相手への気持ちが見える化できてしまう。仕事でもプライベートでも、相手の立場に立った気持ちのいい言葉を選んでいるかを冷静に振り返ってみることが有効です」
中高生や大学生に多いのが、不安ゆえにSNSなどデジタルの世界に過剰に依存してしまうという悩みだ。SNS上のコミュニケーションは速度がある上、複雑だ。八方美人であることが求められる。リアルの世界のコミュニケーションに直結しているので、対応を間違うと両方の世界で居場所がなくなる。
■誰が大切かを決める
頻繁(ひんぱん)に外出ができないからこそ、自分にとって誰が大切か、誰と仕事をしたいか、誰に話を聞いてほしいか、不安な自分の心の現状を理解し共感してくれる人は誰かなど、自分の人間関係を再考して整理するチャンスだと西田さんは言う。整理した上で、大切なことはそれを文字にして、リストアップすることだという。
「誰が大切か、人間関係を整理すれば、これまで以上にそのつながりを大切にしたいと思えるはずです。そして、実際に大切にすると決め実行する。これだけで心の安定や幸福感につながります」
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自分の気持ちの整理や言語化は、心の安定にとても有効だ。日記を書いてみるのもいい。話す、文字に記すなど、言葉にしてアウトプットすることにより、頭が整理され自己理解につながるからだ。西田さんは「りかいの反対はいかり」と話す。語呂合わせだが、人間は他人に対しても自分に対しても理解(りかい)できないと、気持ちは怒(いか)りの方向に向かう。だからこそ、言語化することによって自己理解が深まると、必要以上の不安を感じずに済むようになるというのだ。つまり、不安を抱えている時は、自己変革のチャンスだという。
「例えば、自分が不安で弱っている時は、他者評価が上がるもの。まわりの人から学ぶ姿勢を育むチャンスです。心の弱さを感じるなら、心の強化を体得するチャンス。今こそ多くのチャンスが自分のまわりに存在していると再認識し、どう“考動”するかが今後の人生を左右します」
(編集部・中原一歩)
※AERA 2020年11月16日号
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