10年といっても、変化がない「十年一日」もあれば、変化を示す「十年一昔」もある。若者を中心に人気の「インスタグラム」は今年で10周年。世界は大きく変わった。AERA2020年11月16日号の記事を紹介する。
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投稿されたメッセージに、しきりにこの文字がつけられた。
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最後まで接戦を繰り広げた米大統領選をめぐり、ポジティブ、ネガティブを問わず、SNSではこのハッシュタグが使われた。
いまや一国の行く末をにぎるまでの影響力となったSNS。ツイッターなどの存在感は言うまでもないが、近年は特にインスタグラムの成長が目覚ましい。
■日本は「タグ使い」大国
メディアの視聴者動向を分析するニールセンによると、2010年にサービスを開始したインスタグラムアプリの月間利用者数は、今年9月時点で国内約3千万人。14年9月の350万人から約9倍と急成長を遂げている。同社マネージャーの高木史朗さんは言う。
「16年にストーリーズなどの動画機能が加わったことで、ユーザーの幅が広がりました。当初は若い女性が中心でしたが、今は世代を問わず使われています。男性へのリーチを伸ばせるかどうかが、インスタグラム拡大のカギになるでしょう」
インスタグラムは19年夏、エンジニアやリサーチャーらが集結したプロダクトチームを東京に立ち上げた。スタッフの人数は非公表だが、同社が拠点とする米国外にチームを設置するのは初の試みだという。
創業5周年を迎えた16年頃、インスタグラムはアプリのアイコンをレトロなインスタントカメラ風から、カメラをデフォルメしたような虹のグラデーションへと大きく変化させた。
それを手がけたのが、同社デザイン部門のトップ、イアン・スパルターさん(44)。前述した日本チームを率いている。
アイコンはいわばアプリの顔。突然の変化に批判的な声もあったが、このアップデートをきっかけに、インスタグラムは写真共有アプリから動画配信やECサービスなどのコミュニティーサービスへと進化を遂げた。スパルターさんは説明する。
「ビジュアルで見せるインスタグラム上で新製品を探す習慣があったため、EC機能でそれをもっと便利にしました」
なぜ、日本を重視するのか。
「日本でのインスタグラムの使われ方は独特で、その文化を知りたいのです。ハッシュタグも世界平均の3倍の量を使っています。趣味や関心に応じてアカウントを使い分け、表現する力はずば抜けています」
■短尺動画に「熱視線」
インスタグラムならではの特徴といえば、写真や動画の加工の手軽さだろう。スマホをタップするだけでセピア色にしたり、文字を流せたり。表現の幅広さから、新しいもの好きの若者ユーザーの心もがっちりつかんでいる。スパルターさんが言う。
「関心があるものとつながれることに加えて、自己表現ができる。作り手として、ユーザーがどれほど創造性を持てるかということを大切にしています」
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米国製のサービスが席巻するなかで近年話題に事欠かないのが、中国製アプリだ。オラクルとマイクロソフトが買収劇を繰り広げたTikTok(ティックトック)など動画サービスにも注目が集まり、インスタグラムでも今年、30秒の動画機能「リール」をリリース。
「短尺での表現をインスタグラムにいるクリエイターに活用してもらいたいと思っています。今後、彼らがどう広げていくのかが楽しみです」
スパルターさんはリール導入の狙いをそう語り、こう続ける。
「様々な変化を遂げてきましたが、情熱を持ったクリエイターと受け手をつなぐという軸は変えたくありません。気持ちよく表現し、シェアできる空間を守ることが大切だと感じています」
インスタグラムの前身となるアプリ「バーブン」は、位置情報の共有を目的として産声を上げた。それから10年以上が経った。インスタグラムは世界中のクリエイターの居場所になっている。(編集部・福井しほ)
※AERA 2020年11月16日号
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