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相次ぐ芸能界の自死に思うこと コロナが奪った「ふとした『偶然』の出会い」の大切さ

2020年10月9日 19:00 AERA/photo・片山菜緒子

 著名人の自死が続いている。それぞれの事情はわからない。だが、いま社会を覆うコロナによる不安と無縁とは思えない。人と人を遠ざけたコロナ。奪われた日常。何が変わってしまったのか。コラムニストの矢部万紀子さんがつづります。

【教育のプロが語る“コロナ離婚”の意外な原因 「子育ての軸」を持たない夫婦は弱い】

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 6カ月半ぶりに再開したシアターコクーンに行ったのは、また一人、芸能界で活躍していた女性が死を選んだと報じられた翌日、9月28日だった。

 消毒、検温後に入場。名前、座席、電話番号、メールアドレスを紙に書いて提出。一つおきに座り、舞台に近い人にはフェイスシールドの貸し出し。東京・渋谷の厳戒態勢。そこで「十二人の怒れる男」を見た。

■誰かの前向きに傷つく


 パンフレットを購入した。今年1月、シアターコクーンの芸術監督に就任した松尾スズキさんの文章が載っていた。

 依頼され1年迷ったこと、知れば知るほど芝居は怖いと思うこと、それでも引き受けたのは「初めてコクーンで上演した時、怖くなかったから」。そんなことを綴っていた。そして最後は、新型コロナウイルスの話。

──いざ就任した途端、私が決めたラインナップは、コロナで次々に頓挫していったのだ。ショックだったが、デフォルトに「怖い」を搭載している私は思ったほどくじけていない。怖さを知っているということは、怖さへの耐性ができているということだ。芝居が潰れた、じゃあ、劇場はどうする。二の矢三の矢を考えろ、松尾──

 自分への自信、自分を鼓舞しなくてはという気持ち、どちらもが表れる前向きな文章だった。心が、チクッとした。前向きな人を見ると、少しだけ傷ついたような気持ちになる。

 ダメな感情だとわかっている。だけど、コロナが広がるにつれ、よるべのなさを感じるようになった。よるべのなさが連れてきたのが、「誰かの前向き→少し傷つく」という感情。コロナが収束しないから、ずっと心の中にすみついて、いつまでも消えてくれない。

 フリーランスという立場のせいだと思っていた。先行きが不安だから、充実している人と比べてしまうのだ、と。だけど、徐々にそれだけではないような気がしてきた。

 どのような立場にいるかを問わず、弱い気持ちになる人がいる。ならない人もいるが、なってしまう人が確かにいる。そこがコロナという病の特徴であり、大きな問題なのでは。そんなふうに思うようになったのは、芸能界で自死が続いていることと、少し関係している。

 なぜ、華やかな世界で活躍している人が、そういう行動をとってしまうのだろう。調べると自死は夏以降、増えているようだ。警察庁がまとめている月別の自殺者数を見ると、5、6月は前年より少なかったのが7月から増加に転じ、8月は前年より200人以上多かった。

 それぞれの事情があってのことではある。だが、コロナという病は、人と人とが離れることを求める。できるだけ外出せず、一人でいなさい、と。感染拡大防止の観点からは当然だ。だが、それによって、すごく大切なものを奪われてしまった。何かというと、「偶然」だ。人は案外、偶然というものに支えられているのではないか。そう思うようになった。

■会うことで救われる


 きっかけは映画「82年生まれ、キム・ジヨン」だった。10月9日に全国で上映が始まるこの映画の試写を、9月に入ってすぐに見た。同名の原作小説は韓国で130万部、日本でも20万部突破というベストセラー。心の病を得たキム・ジヨンという女性の人生を通し、女性に与えられた理不尽さを描く「告発の書」だ。多くの女性に「ジヨンは私だ」と思わせ、男性にも読者が広がったと聞く。

 映画は少し、趣が違った。希望の明かりが心にともる。そんな結末になっていた。「本はカルテで、映画は処方箋」。試写会場で配られたパンフレットに、原作の訳者である斎藤真理子さんが書いていた。

 印象的だったのは、ジヨンの担当医師が女性になっていたことだ。原作は男性医師で、ジヨンのカウンセリングを記録、それが女性の生きづらさを綴ることになる。そういう構成になっていた。さらにもう一つ、重要な役割を担っていた。

 彼は最後に自分を語り、そこでジヨンへの理解を示す。その後に、妊娠、退職する職場の女性カウンセラーについて、こう述懐する。「いくら良い人でも、育児の問題を抱えた女性スタッフはいろいろと難しい。後任には未婚の人を探さなくては……」

 これで原作は終わる。差別構造の根深さを、彼という人が体現していた。それが、映画では女性医師になり、目の前のジヨンをまるごと受け止めていた。

 初めての診察でジヨンは、「私が悪いんです」と言う。医師はゆっくりと、「あなたは悪くない」と返す。「ここへ来たら、治療の半分は進んだようなもの」。そう言って、ジヨンにほほえんだ。

 感動した。二人のありように、励まされた。人と人が会う。そのことで人は救われる。そういう場面を目の当たりにして、気持ちが軽くなった。もしこれがオンライン診療だったらどうだったろう。そう思い、試写の帰り道に気づいた。今、足りないのはこれなんだ。

■日常なら曖昧な境界線


「これ」とは何かというと、「ふとした出会い」だと思う。そう、それが「偶然」。ジヨンにとって治療は必然だが、女性医師との出会いは偶然だ。偶然に出会った人同士の、心に染みる会話。スクリーン上には確かにあったのに、現実からは減ってしまった。コロナが、減らしている。

 偶然に出会う相手は、人ばかりとは限らない。風景だったり、聞こえてくる音だったり。そういう何げないもので、嫌なことを忘れたり、少しだけ救われたり、すごく励まされたりする。それが人間というものなのに、それが足りない。

 活躍しているように見えても、実は弱っている人がいる。そんなことも感じる。すごくタフか、それほどでもないか。日常なら曖昧でいられる境界線が、コロナではっきりしてしまうのかもしれない、とも思った。

 コロナが連れてくる新しい局面に対応し、ますます自信を得るのがタフな人。そうでない普通の人は、自信を失いがちなのだ。自分のネガティブな感覚もあり、そんなふうにも考えた。

 竹中平蔵さんが大臣になったのはもう20年近く前、小泉純一郎政権の時だ。それから「勝ち組」「負け組」という言葉が当たり前になり、勝つ人はますます勝つ世の中になった。それは「お金」の話だったけれど、コロナでは加えてメンタルが問われている。お金の問題に直面していない人にも、じわじわと影響が出る。偶然が足りない。励ましが足りない。「よくいる小心者の一人」として、そう思う。

■「わざわざ」が取れない


 リモートワークは、会社よりストレスがない。そういう人は多い。会議もオンラインで済むならそれでよく、それこそ、新しい生活様式。わかっているが、割り切れない気持ちもある。その典型が、オンライン飲み会。あくまで個人的な気持ちだ。

 何回か参加したが、居心地が悪かった。「わざわざ、がんばって加わる」感じが苦手だった。なぜだろうかと振り返ると、共有する空気がないのだ。だから、「わざわざ」な感じが取れない。空気と偶然。コロナにその二つを奪われてしまった。

 だから、というわけではないが、近頃の私はしばしば出かけている。リアル飲み屋にも行く。小心者だがずうずうしいのだ。

 でも、真面目に外出を控えている人は、周りにたくさんいる。乳幼児を抱えている人などもそうだ。小さな子どもに感染させてはいけないと思えば、親子で家にいるのが一番になる。家にいることは防御になるが、自分で完結しなくてはならない。それにはタフさが必要で、そこがコロナのやるせなさだ。

 ふと出会う。ふと思う。「ふと」だけが連れてくるものが、確かにある。国から「Go Toトラベル」と背中を押されるのでなく、ふと思い立って出かけたい。「ふと」は、いつ、戻ってくるのだろう。(コラムニスト・矢部万紀子)

※AERA 2020年10月12日号

【“マスクリテラシー”にドン引き、別れを決意 コロナ禍で激変する恋愛模様】

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電車の混雑「許せるライン」がコロナで一変 「マナー違反」「対面」避けたい利用者たち

2020年10月9日 19:00 AERA/photo・朝日新聞社

 コロナ禍前、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車で通勤することに疑問を抱かなかった人も多いだろう。だが、今は不安が募る。調査から浮かぶのは働く人たちの感覚の変化。通勤手段や働き方の改革が必要だ。AERA 2020年10月12日号の記事を紹介する。

【コロナ禍で「あーん」「もぐもぐ」がわからない子どもたち 保育や家庭でできること】

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 つり革に触れたくない! 換気は大丈夫? コロナ禍の公共交通機関の利用にストレスを感じている人は少なくないはずだ。といっても、完全在宅勤務でない限り、通勤時の電車やバスの利用は避けられない。

 野村総合研究所(NRI)は全都道府県の20~60代の2074人を対象に9月4、5日、公共交通機関の利用に関する意識調査を実施した。わかったのは、特に鉄道利用への不安が強いことだ。

 公共交通機関と駅ビルなど関連施設のうち「不安を感じる場所はどこか」との質問に、41%が「鉄道車両内」(新幹線以外)で不安の程度が大きいと回答。「やや不安」と回答した人も含めると82%に上った。

■マスクなしと大きな声

 鉄道車両内で不安を感じる理由については、「手で触るものが多い」(87%)、「乗客が守るべきルールがわからない、または不足・不徹底」(86%)、「混雑状況が乗車するまでわからない、または混雑緩和が不足・不徹底」(85%)、「消毒が本当にされたのかわからない、または程度が不足・不徹底」(81%)、「換気が本当にされたのかわからない、または程度が不足・不徹底」(80%)が目立つ。マスク着用や座席の一人空けのルールがないこと、消毒や換気が必要なときにムラなく十分に実施されているかに不安があるという。

 また、避けたい乗車状況としては、7割以上が「マスクをしていない人が乗っている」「大きな声で話している人がいる」などの“マナー違反”を挙げ、4割以上が「目の前のつり革に人が立っている」「ボックス席で向かいに人が座っている」などの“対面”を挙げた。

 どのくらいの混雑具合で乗車を避けたいかについては、不安を感じている人の36%が立つ人同士で「肩が触れ合う」「隙間がない」状態のとき、62%が「空席がない、または空席が半数以下」「立っている間隔が2メートル以内」と回答した。

 アンケートからは「マナー違反」「対面」「接近」を避けたい鉄道利用者の意識が浮かぶ。コロナ禍前の通勤電車なら、立っている間隔が2メートルなど望むべくもなかったが、現在では「許せるライン」が一変していることがわかる。

 調査を担当したNRI戦略IT研究室の佐野則子さんは言う。

「鉄道各社はこれまでも感染症対策に尽力してきましたが、利用者は物理的距離の確保やマスク未着用などに不安が残っており、不安を解消するための施策がまだ必要なことがわかります」

 意外だったのは地域性だ。鉄道車両内で不安を感じているのは平均が82%で、関東や近畿が平均以下なのに対し、中部、北海道、中国、四国、東北、九州のほうが不安を感じている人が多かった。

■感染自覚なくても着用


「自動車検査登録情報協会によれば、今年3月末時点で自家用乗用車の世帯当たり普及台数は1.043台で、1台に満たないのは首都圏や大阪、京都、兵庫など関東、近畿が多い。自家用車の保有率が高い地域ほど、鉄道利用に不安を持った可能性もあります」(佐野さん)

 実際、電車内での感染リスクはどうなのか。

 早稲田大学の田辺新一教授(建築環境学)は「感染経路を正しく知り、互いの思いやりと自己防衛でリスクを避ける」よう呼び掛けている。

 新型コロナの感染経路は主に飛沫感染、接触感染が挙げられる。混雑する電車内ではとりわけ、飛沫の発生源を封じるマスクが重要だ。5マイクロメートル以上の飛沫はマスクでほぼ防げる、と田辺さんは言う。

「発症前の人が感染させる確率は5割近くと言われています。大事なのは感染の自覚のない人を含む乗客全員のマスク着用。マナーの徹底が求められます」

 接触感染も気になるが、つり革などに付着したウイルスに手で触れただけでは感染しない。目鼻口の粘膜にウイルスの付いた手で触れたときに、感染リスクが生じることに留意したい。

■見落としがちなのが目


 田辺さんの研究チームが電車内を模した空間で男女40人の動作を動画解析したところ、1時間あたりの顔面への接触頻度は平均17.8回で、このうち口や鼻、目などの粘膜面への接触頻度は平均8回だった。

「私は常にアルコールジェルを持ち歩き、電車に乗った後、顔を触る前に必ず手を洗うようにしています」(田辺さん)

 マスクを着けていると口には触れないので、その面からもマスクは効用がある。一方で見落としがちなのが「目」だと田辺さんは言う。その点、眼鏡は飛沫・接触感染の有効な防御手段になる。抵抗がなければ、ゴーグルやフェイスシールドの着用をおすすめしたい。

 空気感染のリスクをめぐっては、医学的見解がわかれており判断は難しいが、田辺さんはリスクあり、と唱える立場だ。

「電車内でマスクをしていても、5マイクロメートル以下の飛沫の粒子は半分防ぐことができればいいほうで、残りは空中に漂っています。それを吸うと感染するというのが空気感染です」

 密閉空間で空気感染を防ぐカギとなるのが換気だ。

「厚生労働省は空気感染のリスクを明言していませんが、早い段階で『換気が重要』と発信してきました。これは空気感染のリスクを指摘していたのと同じです。飛沫感染や接触感染と換気は無関係だからです」

 どの程度の換気で空気感染を防げるのかはわかっていないが、電車やバスの窓は一定間隔で開けたままにし、適度に換気することで感染リスクは減る、と田辺さんは強調する。

■車や自転車のレンタル


 NRIの調査では、今後、新型コロナの感染が収束して不安を感じなくなった場合も含め、普段の通勤・通学や買い物に出かける際に利用したい移動手段は、やや利用したい人も含めると「所有する乗り物」とする人が8割前後の高い割合を示した。

 感染不安を感じるときに鉄道を利用したいという人は、感染不安を感じないときと比べて57%から22%に減少、バスも45%から14%へ減少する。一定期間借りられる月額定額制などのレンタル制度の利用意向は「車」「自転車」ともに30%で、鉄道やバスを抜いた。自転車を利用したい人の割合は関東や近畿で高い傾向が出ている。

「日常の移動手段は『所有する乗り物』や『一定期間専有できるレンタル方式』なども活用し、できるだけ感染リスクを下げようとする意識が垣間見られます」(佐野さん)

 近場の個室スペース(窓有り)で仕事をすることへの関心度は、利用料が会社負担の場合、44~50%と高かった。在宅勤務の課題である「メリハリの欠如」や「専用スペースの欠如」「家族の存在による集中しにくい環境」の解消が理由、と佐野さんは見る。

「例えば、鉄道会社が近場での働き方支援として、ターミナル駅や準ターミナル駅でない駅についても遊休地を活用しながら、初期費用とランニングコストを抑えた個室スペースを提供し、企業がリモートワーク支援の一環として利用することも考えられます」

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2020年10月12日号

【非正規雇用者がコロナ禍で「116万人減」…失業者は一体どこに消えた?】

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150日で30キロ減の医療記者が明かす「必ず結果が出るダイエットの考え方」

2020年10月9日 19:00 AERA

「デブはタイプじゃない」。そう言われて28歳でダイエットをするもリバウンド。31歳、減量に成功。現在34歳。成功の秘訣は「原理原則を実行しやすい環境づくり」にあるという。朝日新聞社・朽木誠一郎氏が綴る。


ダイエットに最適な寿司ネタ

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 緊急事態宣言が明けて1カ月ほど経ったある日。Zoomではないひさしぶりの“リアル”会議のために出社し、ミーティングルームのドアを開けると、「オオーッ」という声が上がった。「また細くなった」「顔が小さい」「モテそう」──同僚たちから口々に上がる驚きの声に「最近、年下の彼女ができまして」とおどけて返す。

 かつて体重115キロから75キロまで、合計40キロの減量に成功した私は、ステイホーム中もダイエットを継続。体重70.5キロ、体脂肪率11.0%と、さらに体を絞った。と言っても、特別なことをしたわけではない。ダイエットの原理原則を知り、それをハック(攻略)することで、理想の体形は誰もが手に入れることができるのだ。

 そもそも私はなぜ体重115キロまで太ってしまったのか。巷にはびこるダイエット本に書かれているように「意志が弱いから」なら、同じ人物がコロナ禍というダイエットがしづらい時期に結果を残したことと整合性が取れない。ここではっきり言っておくと、ダイエットに「意志の力」が及ぼす影響はそう大きくない。ある研究では、ダイエットの運動習慣において、意志の力が及ぶのはおよそ3割ほどだったという。7割は別の要因、つまり、肥満は意志だけの問題ではないのだ。

 肥満に「社会経済的な要因」が深く関わっていることは、医学の世界ではすでに常識になっている。ストレスや相対的貧困、長時間労働といった「環境」が、人を太らせるように働くのだ。

 私の場合、新卒で入社した企業で激務を経験。仕事が終わるのはいつもテッペンを超えてからで、夕食はその時間帯でも開いている安いラーメン屋でラーメンをおかずに白米を食べ、会社に戻ってソファで就寝していた。当然、休日もほとんどなく、あっても家で寝ているだけ。初任給は同世代よりも低く、常に将来への不安がある状態。振り返ると、私が太ったのは、この環境によるところが大きい。

 かく言う私はメディア業界に飛び込む前、実は医学生だった。医学部を卒業したが、医師にならずに新聞記者をしているという変わった経歴の持ち主だ。つまり、肥満になるメカニズムとその治療方法について、医学的な知識を持ち合わせていたはず。それにもかかわらず115キロという高度肥満にまでなったのは、肥満者に特有の「思考のクセ」というワナがあったからだ。

 時間選好率という行動経済学の概念で説明されるものだが、肥満者には「未来の利益」よりも「目先の利益」を優先する傾向がある。つまり、太っている人にいくら「このままでは病気になる」と言っても、太りやすい生活習慣を止めることができないのだ。たとえ医師になるための教育を受けていても、である。

 また、肥満は「満腹中枢」という脳の視床下部にあり、食欲を司る部位を変化させる。具体的には、食事の満足感を感じる働きが低下し、食べても「足りない」と感じるようになってしまう。過食は肥満をもたらし、悪循環となる。これらのことが意味するのは、太れば太るだけ太りやすくなる“肥満の沼”の存在である。一度そこに足を取られると、個人の意志だけではなかなか抜け出せないのだ。

 繰り返しになるが、正しく行えばダイエットは絶対に結果が出る。結果が出ないのは、その方法が正しくないか、ダイエットをしているつもりでしていないかのどちらかだ。私は太った後、報道機関で医療記者になった。ダイエットをテーマに信頼できる専門家たちを取材するうちに、正しい方法と、それをどう行うべきかという知識を身につけた。このことが、私を肥満の沼から救い出してくれたのだ。そして2017年5月から10月の150日間で約30キロの減量に成功した。そこで大切なのは、「やせよう」という意志ではなく、やせやすい環境づくりだった。

 まず、ダイエットの原理原則を紹介しておこう。それはすなわち「消費エネルギー>摂取エネルギー」である。よく言われることであるが、食事の量を減らし、運動の量を増やせば、太っている人は必ずやせる。しかし、落とし穴もある。例えば長期間の断食や「〇〇だけダイエット」のように偏った食事。摂取エネルギーは減るものの、栄養不足で筋肉と基礎代謝が落ちてしまう。特に筋肉が落ちるとボディーメイクの観点でも都合が悪い。体重は落ちても、手足はガリガリでおなかだけポッコリ、なんてことが起きる。そうならないためには必要な栄養素をしっかり摂取することが必要だ。ダイエットにおける食事は、日本肥満学会の『肥満症診療ガイドライン2016』において、目安となるエネルギー量や糖質・たんぱく質・脂質の割合が定められている。正しい知識を持ってダイエットの原理原則を運用しないと、効果がないばかりか、かえって体形を崩す。

 では原理原則を運用するには、どうすればいいのか。複数の専門家への取材から、まずは食事の改善がもっともインパクトが大きいといえる。というのも、運動は一般的な社会人であれば、できても週に1~2回。しかし、食事をする機会は1日3食と考えれば20回以上。間食をしている人なら30回に近くなる。食事を変えるのがダイエットの近道だとされるゆえんである。

 ただし、栄養素のバランスを、各自の肥満状況に合わせて考えるのはそう簡単ではない。そんなとき活用したいのが「ダイエットアプリ」。「カロママ」や「あすけん」などのアプリは、目標の体重に対してどのような食事が望ましいかを自動的に計算する。実際の食事内容をアップロードすれば、「脂質が多すぎます」「食物繊維が少なすぎます」などとアドバイスをしてくれる。

 有酸素運動を併用するのもおすすめだ。ウォーキングやサイクリング、水泳などの有酸素運動はエネルギー消費量が大きい。運動は合計の時間で減量の効果が左右されるため、1回あたりの時間が短くてもよい。つまり、週に2回60分のジョギングをするより、週に5回30分のジョギングをする方がやせると考えられる。たまに長い時間のジョギングをして、満足している人はいないだろうか。これもまた、正しい知識を持っていないがゆえに起きる、失敗なのだ。

 もう一つおすすめしたいのが、アクティビティートラッカーだ。肥満者には思考のクセがあることを紹介したが、それは自身に対しての認知が歪んでいるということでもある。例えば、食べているのに食べていないと思い、動いていないのに動いていると思う。食事に関してはダイエット管理アプリで客観的に数値化、体を動かす活動量についてはアクティビティートラッカーのようなデバイスを導入するのがいいだろう。1万円程度のものでも、運動によるエネルギー消費量だけでなく、基礎代謝なども計算して表示されるため、認知の歪みを防いでくれる。(朝日新聞社・朽木誠一郎)

※AERA 2020年7月20日号より抜粋

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新宿から上野までブツブツ 春風亭一之輔「落語のテンポって、歩くテンポにすごく合う」

 春風亭一之輔さんは、散歩をしながら落語の稽古をするという。一体なぜなのか。AERA 2020年10月12日号で一之輔さんがその理由を語ってくれた。

肩こりは「ファシア」を意識すれば根治できる! 専門医が伝授するセルフチェックと対策法

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 歩くようになったのは20代前半から。師匠のかばん持ちでついていった時なんか、帰りに「これで帰りな」と千円札をいただくんですけど、もったいないからいつも歩いて帰っていたんです。だから散歩ではなく、やむを得ず歩いた感じですね。師匠のお宅がある小石川から、その頃僕が住んでいた江古田まで、距離にして10キロくらいかな。おかげで歩くのが全然苦じゃなくなりました。

 今も多い日は1万5千歩、少なくとも1万歩くらいは歩いています。落語のネタを覚えなきゃいけない時とか、「今日の夜にこの噺をやる」という時、散歩しながら稽古するんです。落語のテンポって、歩くテンポにすごく合うんですよ。寄席の掛け持ちをする日は、上野から浅草までとか、新宿から上野まで歩きながら、ずっとブツブツつぶやいています。たまにノッてきて声が大きくなってしまって、周りの人から不審な目で見られたり(笑)。落語を体になじませて、その流れのまま高座に上がってお客さんの前でやる、という感じですね。

 人を観察しながら歩くことも多いです。僕がよく歩いている下町のあたりって子どもからお年寄り、お金持ちっぽい人からそうでもなさそうな方まで、いろんな人がいるんですよ。そういう、ごちゃっとしたところから面白いネタが拾えるんです。

 もう家では稽古ができない体になってしまったので、今後も散歩せざるを得ないですね。ブツブツ言いながら歩いている僕を見かけたら声をかけてください。つれない態度をとると思いますけど(笑)。

(編集部・藤井直樹)

※AERA 2020年10月12日号

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首相ゴリ押し「菅製値下げ」が愚策と言えるこれだけの理由 「端末代より通信代」固執の大罪

2020年10月7日 18:30 AERA/写真・朝日新聞社

 NTTがドコモを完全子会社化する。菅首相の「料金の値下げ要求」が引き金だ。長年の肝いり政策だが、ここまで失敗続き。暗黒の未来さえ招きかねない。AERA 2020年10月12日号では、これまでの携帯電話市場をめぐる菅氏の政策を振り返った。

【「携帯値下げおじさん」菅首相のジレンマ 圧力過剰なら「デジタル化」に支障の恐れ】

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 そもそもドコモは1992年、電気通信市場での公正な競争環境を掲げる政府措置に即し、NTTから分離された。すでにNTTとともに日本移動通信(IDO)や関西セルラーなどが携帯電話サービスを提供していたが、固定電話で圧倒的なシェアを持つNTTが、携帯電話市場で過剰に影響力を発揮しないためだった。

 NTT内部では、今後は光通信が本命であり、移動体通信は将来性のない事業とされていた。そのため、NTT本体から移動通信網に出向になった人たちは「島流し」的な扱いだった。

 しかし、ドコモ現社長の吉澤和弘氏は自ら手を挙げて移動通信網に参加。同社で働く社員の多くには、NTTに対する反骨精神でここまでドコモを成長させてきたという強い自負がある。30年近くが経ち、まさかNTTに逆戻りするとは、思いも寄らなかっただろうし、内心、忸怩たる思いがあるはずだ。

 NTTの予想に反し、携帯電話市場はその後急成長を遂げる。94年にはツーカーグループ、デジタルホングループなどが参入。関東圏ならドコモ、IDO、ツーカー、デジタルホンの4社から自由に選べた。そんな中、ケータイ人気に火をつけたのがドコモのiモードだ。「絵文字」によってメール文化が広がっただけでなく、携帯電話で手軽にインターネットに接続できるとあってドコモは爆発的にシェアを伸ばした。

 特有の販売方法も普及を後押しした。端末代は「1円」や「0円」が当たり前。本来は高価な端末を安値で大量にばらまき、通信料金で回収するというビジネスモデルが構築された。


■「端末でなく料金」固執


 だが07年、菅総務相(当時)は有識者会議で「端末代金を高額な通信料金で回収することは不公平感につながる」として、端末代金と通信料金が明確にわかる「分離プラン」を導入するべきだとした。菅首相は13年も前から、通信料金の引き下げにこだわっていたのだ。

 ただ、菅氏の意向に反し、「実質0円」は08年に日本に上陸したiPhoneでさらに加速する。当時はガラケー全盛の時代。孫正義社長はアップルから独占的に販売権を得たiPhoneを前面に押し出し、「他社から乗り換えてくれれば実質0円」というキャンペーンを展開。あっという間に街にiPhoneが溢れるようになった。

 この流れを断ち切ったのも、やはり菅氏だ。官房長官時代の18年に値下げを求める発言を行い、19年には「端末の割引は2万円まで」と上限が設定された。「端末の割引に使う原資を通信料金の割引に回せ」というのが菅氏と総務省の狙いだった。

 しかし、端末の割引がなくなったことで、キャリア間の顧客獲得競争が著しく低調に。顧客の移動がぱたりと止まり、各社の解約率は軒並み低下した。危機感を覚えた総務省はこの2年間、9500円だった契約解除料を1千円以下にし、「2年縛り」も見直させるなど再び顧客の流動性を高め、競争を活性化させようとしているが、全く効果を発揮できていない。

■寡占化の先にあるもの


 キャリアに自由に端末割引をさせ、顧客の奪い合いが続いていれば、競争は過熱。3月から始まった5Gでも、各社が対応スマホを大幅割引で売れれば一気に普及し、日本のデジタル化も加速していたはずだ。だが菅首相と総務省の愚策により、市場は停滞してしまっている。

 端末ではなく通信料金の値下げにこだわりすぎる菅氏と総務省の競争政策が失敗に終わったことで、最終手段である「NTTによるドコモの完全子会社化」につながったわけだ。NTTは国が3割の株式を保有する会社であり、これは準国営化に近い状況と言えるだろう。

 菅首相が通信業界に首を突っ込んだことで競争は止まり、時代錯誤の準国営化でさらに歪んだ市場環境が生まれそうだ。

 今後数年だけを見れば、携帯電話料金が下がって国民としては喜ばしいかもしれない。しかし、大手3社は体力的に生き残れても、これまで安価なプランでシェアを伸ばしていた格安スマホや、4月に第4のキャリアとして参入した楽天モバイルは窮地に追い込まれるだろう。

 格安スマホや楽天モバイルが撤退などということになれば大手3社の寡占状態に戻ってしまう。寡占状態の市場で、財やサービスの価格はどうなるのか。通信業界で、まさに中学の公民の授業で習ったことが起きようとしているのだ。(ジャーナリスト・石川温)

※AERA 2020年10月12日号より抜粋

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「くそったれショー」と酷評された米大統領候補の討論会 トランプ氏は人々に恐怖引き起こす発言も

 米大統領候補の第1回テレビ討論会の評価は低調だ。さらにトランプ大統領に新型コロナ陽性反応が出た。投開票日を含め、米国内は混乱に陥る可能性もある。AERA 2020年10月12日号では、前代未聞となったテレビ討論会を取り上げた。

【「トランプに出し抜かれるぞ」マイケル・ムーアが警鐘 トランプ氏の猛追でバイデン氏は逃げ切れるか?】

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「こんなに暗い時代なのに、米国にとってなんという無駄だ」

 政治ジャーナリスト、エロール・ルイス氏はニューヨークのニュース専門局「NY1」に出演し、こう嘆いた。9月29日に開かれた大統領候補によるテレビ討論会を見た直後だ。

 90分にわたる討論会は、最初のわずか10分で異常さを帯びた。共和党候補のトランプ大統領が、民主党候補のジョー・バイデン前副大統領を「ジョー」と呼び捨てにし、バイデン氏の発言中も割り込んだためだ。トランプ支持者に「大統領らしい」と思わせる強い態度を貫く戦略であることは、明らかだった。

 バイデン氏は、政治家として失言があることで有名で、予備選挙の討論会では攻撃されると言葉が出てこなくなる場面が目立ったのが懸念材料だった。しかし、失言や吃音(きつおん)はなかったものの、トランプ氏の攻撃に対し、「道化師」「うそつき」と、現職大統領に言い返し、「泥仕合」となった。

 つまり、本来は政策の違いなどを有権者に訴えるための討論会が、「言い合い」に終わってしまった。「討論」が不可能な状況をトランプ氏が作ったのは明らかだった。

■「くそったれショー」


 米国人は、これをどう見たのか。トランプ氏の「討論」での振る舞いを表す言葉は「いじめ」「子どもっぽい」「無礼」と厳しい。バイデン氏については「弱々しい」「大統領らしい」「かわいそう」と反応は分かれた。討論会全体については「大混乱」「くそったれショー(転じて最低の出来事)」などの言葉が挙がった。政治ニュース専門サイト「アクシオス」と調査会社サーベイモンキーが討論会後に、米成人2618人に対して行った調査結果だ。

 トランプ氏の言動が期待より悪かったと答えた人が39%だったのに対し、バイデン氏は13%。また、37%の民主党員が怒って途中で討論会を見るのをやめたと答えた。無党派層では24%だったが、共和党員は9%にとどまった。トランプ氏の常軌を逸した言動にかかわらず、共和党員の多くが最後まで討論会を見たことが分かる。

■白人至上主義を拒まず


 米メディアは、混乱ぶりをこき下ろした。

「民主党員も共和党員も、それぞれの候補が勝つと納得できる内容ではなかった。あと2回ある討論会を多くの米国人が熱心に見るとは信じがたい」(アクシオス)

「トランプの妨害が1回目の討論を混乱に」(米紙ニューヨーク・タイムズ1面)

「ひどい!」(保守系タブロイド紙ニューヨーク・ポスト1面)

 その上、内容が前代未聞だったにもかかわらず、トランプ氏の二つの発言が、全米の市民や選挙関係者、警察などに不安と恐怖を引き起こした。第1に白人至上主義を否定しなかったことと、第2にトランプ氏が敗北したとしても選挙結果を受け入れないと表明したことだ。以下はそのやりとりだ。

司会者「(極右の)白人至上主義者と武装グループを批判するお気持ちはありますか」

トランプ氏「私が見る限りほぼ全ての(暴力)行為は、左派からだ。右派からではない。私に誰を非難しろというんだ」

バイデン氏「プラウド・ボーイズ(注:米国で最もよく知られた、ヘイトグループ)では」

トランプ氏「プラウド・ボーイズ、一歩下がって、待機せよ。なぜなら誰かがアンティファ(注:反ファシズムのグループ)など左派に対抗しないといけないからだ」

 プラウド・ボーイズは2016年創立の「西部の熱狂的愛国主義者」を自称する男性組織。米名誉毀損防止同盟(ADL)によると、女性・イスラム教徒・移民・LGBTへの差別を容認する。関係者は性的暴行を支持し、暴力犯罪で有罪判決を受けたメンバーもいる。

 プラウド・ボーイズや一部のトランプ支持者は、「下がって、待機せよ」というトランプ氏の発言がグループへの支持を示したものだと捉えた。アクシオスによると、プラウド・ボーイズ幹部のジョー・ビッグズ氏は、保守系ブログにこう書いた。

「トランプ大統領は、誰かが左派グループ、アンティファに対応しなければならないため、プラウド・ボーイズに待機せよと命令した……はい、サー! 私たちは準備ができています。トランプ氏は基本的に彼らを消せと命令した。うれしくてなりません」

 もう一つのトランプ氏の問題発言は以下だ。

「何カ月も(大統領選挙の)結果が判明しないかもしれない。なぜなら投票用紙があちこちに散らばっているからだ……詐欺だし、恥ずべきことだ……八百長の選挙だからだ」

■投票の再集計を意図か


 この「何カ月」という部分に米メディアが反応した。トランプ氏は、新型コロナウイルスの感染を恐れる有権者が行う郵便投票の用紙を民主党がだまし取ると繰り返し主張している。米メディアは、11月3日の投開票日の結果でたとえ大敗しても、トランプ氏が激戦州で投票用紙の再集計を実施させる意図があると捉えた。

 米大統領選は近年、大半が投票締め切りから数時間後の開票結果に基づき、メディアが「当確」を打ち、敗北した候補者は、敗北を認める演説をするのが常だった。それが今年は実現しない可能性が浮上してきた。

 犯罪や国家安全保障の専門家らは一斉に、投開票日の投票所の安全と、投開票日後の暴動を含む治安の悪化を懸念する発言を始めた。

 八百長選挙というトランプ氏のメッセージを受けたトランプ支持者や右派グループが自主的に投票所の「監視」を行う可能性が出てきたためだ。投票所ごとに配置された公式な共和・民主党の監視員とは別の市民であり、特に銃の持ち歩きが許されている州で、銃器を持ち込んでくるのは容易に予測できる。「監視」だけにとどまらず、銃保有の反対派や、白人以外のマイノリティーに対し、投票妨害さえ起こしかねない。

 各地の警察は、すでに投開票日後の選挙結果をめぐる右派と左派の対立や暴動に備え、警官の訓練などを進めている。しかし、投開票日当日の投票所の警備は予定されていなかった。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

※AERA 2020年10月12日号より抜粋

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家賃4万7千円のアパートに暮らす「統計王子」の自制心 衆議院議員・小川淳也<現代の肖像>

2020年10月7日 18:30 AERA/写真・葛西亜理沙

 映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」でも話題となっている小川淳也さん。その体に漲るのは「自制心」である。高校では野球部に所属しながら東大に合格。入省し官僚になったが、そこで気がついた。ここで働いて日本をよくできるのか、と。政治家になってからも、正道を踏み外すまいと、より自分を律する。頭にあるのは、いつか日本をよくしたいということだけだ。

* * *
 まもなく齢五十を迎える一人の政治家に、まだ蒼い、まるで蒙古斑でも残っているかのような青年の初々しさをみる──。

 初めて衆議院議員・小川淳也(49)に会った人は、皆一様に同じ思いを抱くという。すらりとした体躯と溌剌とした性格。その風貌はグラウンドを駆ける高校球児のようだ。事実、小中高と野球部に所属。今でも時間が許せば母校の野球部OB主催の練習試合に参加し汗を流している。

 しかし、国会の予算委員会の質疑など、政治の主戦場に立つと面立ちは変貌する。ファクトに基づく緻密な理詰めと大胆な論の展開。隙はない。利発な光を放った目は物事をよく捉え、体が敏捷に動く。

 選挙区以外では無名だった小川が「統計王子」の異名でメディアに取り沙汰されるようになったのはわずか1年前のことだ。厚生労働省が発表している「毎月勤労統計」の不正が明るみに出たのがきっかけだった。

 この時、無所属議員の小川を質問者に抜擢したのが立憲民主党の国会対策委員長(当時)だった辻元清美(60)だ。辻元は同僚の1年生議員に、本物の質疑の凄みを見せて学ばせたいと考えていた。ただ、統計という専門分野にうかつに手を出すのは危ない。そこで、元総務官僚で統計の扱いに慣れていた小川に白羽の矢を立てたのだ。無所属の議員が、党所属のベテラン議員を差し置いて、時の総理にも直接、質問できる国会の花形の質疑に立つのは極めて異例だった。辻元は「淳也、質問の千本ノックやるか?」と声をかけ、質疑当日に向けて徹底的に準備をした。

「トップバッターに要求されるのは、一発で相手を仕留めに行くこと。厚労省が勤労統計の調査手法を変更したきっかけが、麻生(太郎)財務大臣の経済財政諮問会議での『統計の精度を上げろ』という発言だったことを取り上げ、それを国会で本人に突きつけた質疑は圧巻でした」(辻元)

 躍動感に満ちる小川の全身に漲るのは自らを戒め、律する自制心だ。

「政治家、国会議員。そんなものになりたいわけじゃないんです。ただただ、この国の政治を何とかしたい。その気持ちは初めて国政に挑んだ日から変わりませんし、誰にも負けるつもりはありません」(小川)

 そのストイックさは生半可ではない。国の舵取りの一端を担う政治家である以上、まかり間違っても、少々のことでは浮かれない。絶対に正道を踏み外すまいと心に決めている。政治資金の使途も厳格だ。決して無駄遣いはしない。

「本格的な、本物の仕事をするためには、自己規律が基本だと思っています。僕は目立つことも得意ではありませんし、常に地面の上を実直に這うことくらいしか取り柄はありませんから」


 小川が暮らしている自宅は、家賃4万7千円のアパートだ。身にまとうスーツも地元の量販店で買い求めた一張羅。これをボロボロになるまで使い続ける。しかし、その気概を現代の修行僧だと笑う者もいる。愛想をつかした同僚議員も数知れないだろう。しかし、当の本人はどこ吹く風だ。

 現在、上映されている「はりぼて」という映画がある。2016年に富山で発覚した市議会議員による政務活動費の不正受給問題を描いたドキュメンタリーだ。映画の配給会社から感想を求められた小川は、司馬遼太郎の「峠」という作品の一節を引いてコメントした。

「男子の志は塩のように溶けやすい。生涯の苦渋はその志をいかに守り抜くかにあり、その工夫は格別なものでなく、息の吸い方、吐き方、箸のあげ方、下ろし方、それを守る日常茶飯の自己規律に貫かれておらねばならぬ」

 この言葉は、他ならぬ自分自身への戒めだ。その後、前首相・安倍晋三の「桜を見る会」の疑惑追及でも活躍。時の首相や官房長官を前にしてもひるまず、たじろぎもしない。豊かな鋭感を秘めた、ドキドキするような思いで見守りたい次世代の旗手は、こうして頭角を現した。この頃から小川は劇的に化ける気配が充満していた。

(文・中原一歩)                                                 

※AERA 2020年10月12日号より一部抜粋

【「8割おじさん」のはち切れそうなシャツから妻が感じたサイン 西浦博<現代の肖像>】

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臭い靴下+バニラ=チョコ においの足し算と引き算で脳が感知

2020年10月7日 18:30 AERA

 事実は小説より奇なり。朝日新聞が報じたB級ニュースを、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』で、夕日新聞社としてピックアップ! 2020年10月号からその記事を紹介する。

■日本初の「いちご学科」1期生募集

 (2020年7月7日 栃木県)

 いちごの生産量日本一の県はどこ? 答えは栃木県。1968年からずっと生産量トップを守る。いちごの本来の旬は春の5、6月だが、栃木は11~5月と品質のよいいちごを長く生産できるのが強み。

 そんな「いちご王国」に、来年4月、日本初の「いちご学科」が誕生する。同県宇都宮市にある県農業大学校で、在学は2年間。すぐれた技術と高い経営能力を持つ、企業的な経営ができる農業者の育成をめざすという。募集は10人。受験資格は高校卒業か、来年3月卒業見込みで、年齢の上限はない。卒業後に県内で就農することも条件だ。

 福田富一知事は「いちご農家は減り続けている。若い人を含めてぜひ応募してもらい、新たな人材を得ながら、いちご王国を守り続けていきたい」と語る。

 日本一を維持してきた先輩たちの期待がかかる。


■ホットドッグ早食い 日本人が7連覇

 (2020年7月4日アメリカ)

 アメリカ独立記念日の7月4日、ニューヨークで、1916年から続くホットドッグの早食い大会が開催された。毎年、多くの市民に見守られながら屋外で行われる人気イベントだが、今年は新型コロナウイルスの感染を避けるために、屋内の無観客試合となった。

 選ばれた5人が参加した女性部門では、ラスベガス在住で6大会連続優勝の須藤美貴さんが10分間で48・5個をたいらげ、7連覇を果たした。

 須藤さんは右手でソーセージだけを2本同時に食べつつ、左手でバンズを水に浸して口があいたら放り込むスタイルで、序盤から他の選手を圧倒。3年前の自己ベスト(41個)を塗り替え、12・4秒に1個という驚異的な記録を刻んだ。

 男性部門の記録は10分間で75個だって!

■臭い靴下+バニラ=チョコ においの謎に迫る

 (2020年7月3日福岡市)

 においは、鼻の奥にある神経細胞がさまざまなにおい物質を感知して、脳に伝達して感じる。これまで複数のにおい物質をかいだときは、各成分の「足し算」としてにおいを感じるという定説があった。だが、臭い靴下のにおいと、バニラの香りを合わせると、チョコレートの香りに感じるなど、説明できない事例も知られていた。

 九州大学などの研究チームが、このしくみを解明するために、マウスを使ってにおいへの反応の強弱を調べたところ、各成分の「足し算」としてにおいを感じるだけでなく、抑制化される「引き算」のケースもあると発見した。複数のにおいを混ぜてかがせると、反応がより高まる「相乗効果」や、逆に弱まる「拮抗作用」がみられるケースも。靴下とバニラの例では、靴下の臭さを拮抗作用で抑え、相乗効果でチョコの香りを感じている可能性があるという。

「引き算」のケースは世界初の発見なんだって!

■海水浴場に巨大ワニ!?

 (2020年7月9日青森県)

 青森県鰺ケ沢町の海水浴場に砂で作られた巨大なワニ2匹が相次いで現れた。体長はそれぞれ5mを超える。

 近くに住む男性によると、7月3日に砂浜で何かを作る若者たちが目撃され、翌日朝には1匹目のワニが完成していた。そして9日朝には、さらに大きな2匹目が寄り添うように作られていたという。

 鋭い目つきや背中の凹凸など実物そっくりな姿が話題になり、砂浜はワニを一目見ようと集まった人たちでにぎわっている。

 やがて消えてしまうはかなさも人気の秘密。

※月刊ジュニアエラ 2020年10月号より

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cat_1_issue_oa-aera oa-aera_0_5bcsoq3jaqqf_「負けました」が人を育てる! 羽生善治九段も考える将棋“感想戦”の重要性とは? 5bcsoq3jaqqf 5bcsoq3jaqqf 「負けました」が人を育てる! 羽生善治九段も考える将棋“感想戦”の重要性とは? oa-aera 0

「負けました」が人を育てる! 羽生善治九段も考える将棋“感想戦”の重要性とは?

 藤井聡太二冠の登場が「変革」をもたらしたのは、将棋界だけではない。子どもの教育に将棋が良いのでは──そう感じた人も多いはずだ。挨拶が心を落ち着かせ、「負け」が人を豊かにする。AERA 2020年10月5日号将棋特集から。

【「こんなこと普通できません」藤井聡太二冠がみせた“真逆の展開”に渡辺明名人が驚き】
*  *  *
 大盤を前に、「次の一手は、どこに駒を動かすのがベストかな?」と問いかける。すると、小学生18人が次々に「ハイッ!」と元気な声で挙手する。

 9月中旬、東京・吉祥寺にある将棋サロン「将棋の森」の子ども教室「しょうぎテラコヤ」を訪ねると、ワイワイした講義風景が見られた。指導役は、高橋和(やまと)女流三段(44)だ。

 対局の時間になると、子どもたちは一気に集中モードに。教室に響くのは駒音だけになった。子どもたちのマナーの良さに、正直驚いた。

 高橋さんはオンとオフの「モードの切り替え」ができるようになるのは、将棋ならではの良さだと話す。

「将棋の場合、『三つの礼』の決まりがあって、必ず対局する相手と挨拶を交わしますよね。これが切り替えスイッチの役割を果たしていて、周りの雰囲気から自然と学んでいくんです。『あ、今は静かにするんだな』と。それに、大きい子が低学年の子に『静かにしないとね』とさり気なく注意してくれたりする。なので、私が大きな声で注意する必要もないんですよ。楽させてもらってます(笑)」

■負けを認めるプロセス

 将棋を習うと、精神面での成長にも結びつくという。

 都内在住の11歳の男の子は、将棋歴が9年。子ども向けの大会で賞をもらった経験もあり、ここにきて将棋の腕を上げているという。母親は言う。

「うちの子は幼児の頃は癇癪(かんしゃく)持ちで、我慢することが苦手でした。欲しい物があれば、『買って!』と騒ぐし、カードゲームで負けただけでも、ワーッとカードをばらまいたりしていたし。でも、将棋を習い始めてからは、我慢や待つ姿勢を身につけることができるようになったんです。将棋って、相手が熟考している間は、ひたすら待ちますから。精神論というより、純粋に対局が楽しいから待てるようになったんでしょうね」

 礼儀も、我慢強さも、対局の経験を重ねる中で、「子ども自身が獲得していく」と高橋さん。


 まずは、「よろしくお願いします」と“始まりの礼”を交わす。勝負が進み、勝てないと判断した側が敗北を認めて「負けました」と自ら頭を下げて伝えるのが“負けの宣言の礼”だ。

「何度も負ける経験をして、自分の中での折り合いの付け方を学んでいくのが将棋。この負けを認めるプロセスって、子どもにとっては苦しいと思いますよ。悔しくて、涙を流す子どももいます。私も小2で道場に通うようになった時、大人の人たちにどうしても勝てない自分が悔しくて、目にいっぱい涙をためて帰りの電車に乗っていた日々がありました」(高橋さん)

「三つの礼」は、対戦相手とフェアに戦う精神性を養う。ひいては、将棋そのものの強さにもつながる──。そう話すのは、東京福祉大学教育学部の専任講師で、日本将棋連盟学校教育アドバイザーを務める安次嶺(あじみね)隆幸さん(57)だ。かつて、デビューしたての頃の藤井聡太二冠が、「負けました」と頭を下げて投了する相手よりも低く頭を下げていた姿を目にした。安次嶺さんは、「藤井さんが勝ったはずだが」と目を疑った。この「謙虚さ」があるからこそ、藤井さんは強豪の先輩たちを前にしても、落ち着いた気持ちで自分の将棋が淡々と指せるのではないかと言うのだ。

「少し前に、大学の授業で藤井さんの対局の写真を見せたことがあるんですよ。ある学生は、深々と礼をする姿を見て、『あれ? 藤井さん負けたんですね』と勘違いしたぐらいです」

 と安次嶺さん。藤井二冠の凄さは、この「謙虚さ」を今も続けていることにあるという。


■リスペクトを言葉に

 負けの宣言の礼の後は、一局を振り返る「感想戦」が始まる。安次嶺さんは、この感想戦こそが、将棋を将棋たらしめている大事なエッセンスだともいう。

 勝者も敗者も関係なく、二人がボソボソと感想を述べ合う。局面を再現しながら、たとえばこんな風に。

「この局面では、まだ(勝てる)自信はなかったです」
「私は7八金(という手)もあると思ってましたが」
「なるほど。そう来ると、銀で受けられますね」

 勝った側は相手の気持ちを察して大喜びしたい感情を堪え、相手へのリスペクトを言葉に込める。負けた側は冷静な目で勝負の内容を顧みる中で「心を折りたたんで」波立つ心を浄化していく。

 安次嶺さんは、負けの宣言から、「ありがとうございました」と“終わりの礼”に至るまでの間に感想戦の時間を挟むことの意義を、こう語る。

「直前まで真剣勝負を繰り広げていた相手と『もっと違う手もあっただろう』と最善を探り合う。これ、すごいことですよ。だって、ホームランを打たれたピッチャーが打者に『お前、今の球どうだった?』とは言わないでしょ? 将棋の場合は、あえて言うんです。それは、お互いに高みを目指す中で、高度な学びが得られるから。それと、一局を俯瞰する中で『あの時、勝ちを急いで焦る心理が邪魔をしていた』などと自己の内面を見つめ直す時間にもなる」

 折々に対局の解説も行う安次嶺さんは、感想戦をみれば、トップ棋士こそ振り返りを大事にし、「次は、もっと」とあくなき探究心を持ち続けているのがわかるという。

 印象深いのが、羽生善治九段があるタイトル戦に挑んだ際に目にした光景。羽生さんには残り時間が1時間あり、自分が負けだとわかっている局面でいつまでも投了せずに盤面を凝視し、考え続けていた。後日、安次嶺さんが対談の場で「なぜ、考え続けるんですか?」と尋ねると、羽生さんは、こう答えたという。

「簡単に投了すれば、その時は楽だけれど、次に全力が出せなくなる。『自分は最後まで最善を尽くして負けたんだ』と、感想戦などを通じて振り返った時に思えるかどうかが大事なんです」

 探究性を高める感想戦の要素を、教育現場に生かす取り組みもある。聖隷クリストファー大学(静岡県浜松市)社会福祉学部こども教育福祉学科で実践している「板書感想戦」だ。

 将来、先生となって授業をする学生たちが先生役と児童役とを交代して模擬授業を行う。授業を担当しない回は、児童役兼参観者となる。授業の流れが記録されているのが「板書」であり、それを将棋の盤に見立てる。授業後、参考になった授業のやり方だった板書の箇所は黄色の、要検討の箇所は赤い付箋を貼っていく。すると、付箋の色の分布で、授業の振り返りができる。特に、要検討箇所の指導のあり方を吟味する。


■「板書感想戦」の効果

 発案したのは、同学科の飯田真也教授。将棋の感想戦に着目したのは、「この局面でこの手は、どんな意味があるのか」という、意味の理解が深まる点だ。

 今年6月から8月まで、算数科指導法で板書感想戦を試みたところ、「授業者も参観者も分け隔てなく、全員が板書に向かうことで、最善の手、つまり『より良い指導のあり方』を目指す協働の場での探究性が生まれた」と、飯田教授は実感している。

 このように将棋には、感想戦一つを取ってみても、子育てに効く要素が満載だ。とはいえ、まだ幼く、初心者のうちは感想戦の意味を見いだせないし、細やかに感想を述べ合うのは難しい。盤面一つひとつをクリアに記憶しきれないからだ。前出の高橋女流三段は言う。

「感想戦って、正直、子どもの頃はしたくなかった。負けた後はやっぱり悔しいし、早く終わりたいし。だから、子どもが本将棋を指せるようになったら、対局後に『まずは良かったことを一つ、悪かったことを一つ、お互いに言ってごらん』と。そういうところからスタートしてみるとよいと思います」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

※AERA 2020年10月5日号

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福島県飯舘村で「移住者101人」 避難指示解除から3年余り、戻らない住民も多い一方で

2020年10月7日 18:30 AERA/写真・菅沼栄一郎

 原発事故で、村の全域が計画的避難区域となった福島県飯舘村。避難指示が解除されても 戻らない住民も多い中、移住者が101人となり、村の担当者を驚かせている。 AERA 2020年10月5日号から。

*  *  *
 福島県飯舘村。9月下旬の祝日。小高い丘の上にある旧草野小学校の教室に、20人余りが集まった。村に移住してきた人たちやその暮らしに関心がある仲間たち、村の人たちが参加したワークショップで、村の「将来ビジョン」を語り合った。


 小原健太さん(42)は、4カ月前に埼玉県から妻と2人で引っ越してきた。「来年から花栽培農家を始め、スターチスを育てます。年収500万円を目指したい」。サラリーマンをやめて、「不便で、知らなかった場所で」、初めての農業にチャレンジする。「稼げる農業モデルを実現できたら、満員電車に嫌気がさしている都会の勤め人は、どんどんやってくると思いますよ」。放射性物質は日常生活では気にならないし、花栽培にも影響はないと思っている。ただ、「山林に入る場合は、まだ線量が高い部分があるので気をつけている」と話す。

「100人目の移住者」となった造園業の塚越栄光さん(45)は、小原さんと新たな「契約」を結んだ。塚越さんは東京・渋谷の商店街にも拠点を持つ。小原さんが手始めに、知り合いの畑で咲かせたシクラメンがこの秋にも、パルコに向かう通りに並ぶことになりそうだ。

 2011年3月の福島第一原発の事故の後、当時の住民約6200人の大半が村を出た。原発から半径20キロ圏内の「警戒区域」以外にも避難指示が出たからだ。飯舘村の中心部は原発から約40キロ離れているが、風向きや地形の関係で他地域より積算放射線量が高くなる恐れがあるとされ、全域が計画的避難区域となった。当時、暮らしが消えた村には、牛や飼い犬が牧草地や庭先に残され、たまにエサやりに戻る村人の姿が見られるだけだった。

 17年3月、「避難指示」は一部を除いて解除されたが、全国に避難した3800人余りはなお、戻らない。9月1日現在の村内居住者は1472人(震災前の約2割)とされるが、福島市(避難者約2400人)など近隣地区に建てた家との二重生活をしている人も少なくない。


 佐藤健太村議(38)は、避難期間中に結婚し、今は家族4人で福島市で暮らす。同市内から毎日のように、自ら経営する飯舘村内の工場に通っている。「放射性物質の子どもへの影響を気にする親もいますが、むしろ、震災から10年近くが経って、生活の拠点を動かしにくくなった人が多いと思う」という。

 一方でこの8月末、村外からの移住者が100人を超えて、村の担当者を驚かせた。

 村づくり推進課によると、移住した101人のうち、60代が27人と最も多く、これに次いで働き盛りの40代が19人。50代以上が半分だが、小原さんのように40代、あるいはそれ以下の若い世代も目立つ。移住の理由は、「実家にUターン」が29人ともっとも多いが、「就職、就農」も合わせて25人だった。

 村では3年前の避難指示解除で村内に居住が可能になって以来、移住者支援に力を入れてきた。「家の新築には最大500万円、中古には最大200万円のほかに修繕費として最大100万円を補助する」といった、手厚い政策を展開している。101人の「移住者」は厳密に言えば「移住定住支援事業補助金」を受け取った人だ。補助金を受け取らなかった人も含めた「転入者」は全体で182人いる。

 ワークショップで小原さんと背中合わせの席にいた、松本奈々さん(28)が話した。「どんな人でもやってきて住むことができる『多様性』を大事にしたい」。松本さんは、昨年の春、「地域おこし協力隊」の一員としてこの村にやってきた。この日の会場になった旧草野小学校を改造して、村外からやってくる移住者やアーティストの活動の場にする作業を進めるため、仲間を募集中だ。近くの民家を、シェアハウスにする事業も、村から任されて進めている。福島市の出身だが、東京の大学にいる時から、飯舘村の支援事業に関わった縁で、村に飛び込んだ。

 若い人たちの議論を、教室の後方で聞いていたのが、元物理研究者の田尾陽一さん(79)だ。田尾さんは避難指示解除後、住民票を移し、家を建てて東京から引っ越した。

 同村に初めてやってきたのは、11年の震災後間もなくの6月。原発事故の放射性物質を浴びた現場を、医師や研究者、退職した元教師ら17人とともに視察。地元の農業者と「再び農業ができる村をつくる」目標で意気投合。後にNPO法人「ふくしま再生の会」を立ち上げた。

 ワークショップの主催者は、田尾さんの娘で今年、東京藝術大学を卒業した矢野淳さん(25)だ。矢野さんは、東京の大学と村を拠点としながら、大学などの仲間と共に、飯舘村の歴史や事故後のあり方を調べてきた。「ふくしま再生の会」の9年余りの活動記録を踏まえ、地域おこし協力隊の松本さんと相談しながら、7月以来2回のリモートワークショップを重ね、村の将来のあり方を探ってきた。

 3回目の今回は、初めての対面でのワークショップとなった。矢野さんは「飯舘村だけの特殊な将来像でなく、高齢化、少子化が進み、コロナ禍が広がるなかで、世界にアピールできる課題解決への道を、みんなで紡ぎ出したい」と言う。「世界にアピール」は既に現在進行形だ。田尾さんによると、「ふくしま再生の会」のメンバーが学会や英文誌に発表しているほか、香港の大学研究員が世界各地で報告している。この研究員は昨年の3カ月間、村内の再生の会事務所に泊まり込んで、「ふくしま再生の会」のNPOとしての活動実態を「文化人類学的手法」で調べた。来年にも再来日し、飯舘村の研究を続行する予定だ。

 避難中の人たちも、飯舘村の将来設計に意欲的だ。原発事故後に北海道栗山町に避難、牧場を経営する菅野義樹さん(42)は、このワークショップの常連で、今回もリモート参加した。

「(故郷に)戻った人、戻りづらい人、新しく住んだ人が、集まることができて、ぼくの念願もかなった。今後もこうした機会を重ねて、みんなが知恵を出して、これからの『いいたて』を作っていきたい」

 元村職員の杉岡誠さん(44)は今回初参加。「自分も200年前に北陸から移住してきた寺の6代目住職です」と自己紹介、移住者や学生たちと熱心に議論を続けた。10月に任期満了を迎える村長選は、6期務めた現職(73)が引退、今のところ杉岡さんだけが出馬表明している。

「私は明日が待ち遠しくなるようなワクワクする村にしていきたいと思っています。村に戻った人、新しい生活を始めた人、新しくやってきた人、皆が語り合うこうした場がふるさとを育てていきます。これからもぜひ続け、私も参加させてほしい」

 飯舘村の現実は、必ずしも楽観視できない。村のなかで、野菜や魚など生鮮食料品を売る店は、まだない。商売として採算が合わないからと言われており、村民は隣の川俣町のスーパーまで行く人が多い。そうした中で、村の内外で様々な居住形態の人たちが参加して、ひとつのコミュニティーづくりを目指す試みが、動き出した。主催者の矢野さんは言う。

「こうしたワークショップをさらに重ね、広げて、村内外の仲間を増やし、将来を担う若手主体の組織を作り、ふくしま再生の会とも提携していきたい」

(朝日新聞社・菅沼栄一郎)

※AERA 2020年10月5日号

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