テレワーク普及の流れは止められない。だが、それとともに新たな悩みやストレスを抱える人も増えてきた。組織のコミュニケーションを見直すチャンスと捉え、新たなルール作りを進めたい。AERA 2020年9月7日号で掲載された記事から。
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テレワークでオンライン会議やメール、チャットが急増する一方、対面のコミュニケーションは減っている。
テレワークの普及とともに、新たな悩みやストレスを感じる人が増えている。
都内の会社員の女性(52)は、オンライン会議のたびにイライラするという。
「一人一人の様子がわかりづらくて発言しづらいし、発言した後の相手のリアクションもわかりません」
コロナ以前、会議室で集まっていたときには、周囲の呼吸や雰囲気が直に伝わった。だがオンライン会議では10人近い参加者全員の顔を一度に見ることはできないし、すぐには発言者がわからないことがある。
アエラが8月中旬にウェブで行ったアンケートでも、オンライン会議に対する不満や悩みが多く見られた。
「言いたいことの半分しか伝わっていない」(40代女性・会社員)、「間(ま)が取りづらい」(40代男性・会社員)、「相手の雰囲気がわからず一方通行感がある」(50代女性・会社員)
東京女子大学の橋元良明教授(情報社会心理学)は、オンライン会議におけるストレスの最大の要因は、ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションの減少にあると指摘する。
「相手の顔が見えるとはいっても、細かい表情や対面の場合だとわかる様々なボディーランゲージなどが抑圧され、トータルの情報量が低下します」
人は言葉だけで相手とコミュニケーションをとっているのではない。身振り手振り、ちょっとした仕草……。こうしたノンバーバルなコミュニケーションをトータルで判断する。それがオンラインでは見えづらく、その結果、言葉への依存度が増し、相手の声を聞き逃すまいと緊張感が高まりストレスや疲れを覚えるという。
顔の距離も、対面とオンラインでは大きく違う。リアルな会議では、顔を近づけ合うことは少ないし、全員と真正面から向き合うわけではない。ところがオンライン会議では、ほんの40、50センチのところに全員の顔が真正面に並ぶ。これにプレッシャーを感じるという人も多い。
「オンラインは互いの目と目の距離が近い。その結果、自分の空間、すなわちパーソナルスペースが侵害されているように感じるのです」(橋元教授)
もちろん、オンラインならではのメリットもある。上司も部下も同じように並ぶオンライン会議は、リアル会議よりもフラットで、率直に意見を言い合うのに向いている。日本ファシリテーション協会フェローで『オンライン会議の教科書』の著書がある堀公俊さんはこう語る。
「以心伝心、忖度、阿吽の呼吸。こうしたものに頼ってきた組織ほど、オンライン会議をうまく進めることができません。会議は組織の縮図。組織全体のコミュニケーションをトータルデザインするなかで、オンライン会議のルールを各社がそれぞれ設定する必要があります」
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オンライン会議を活用せざるを得ない今は、新たなルールを作って組織を変えるチャンスだとも言う。
「そのためには、オンライン会議はリアルの代替ではなく、似て非なるものだと認識することが大切です」(堀さん)
たとえば、リアルな会議ではわざわざ挙手をしなくても、その場の空気を読んで発言すればよい。だが、オンライン会議だと、発言が重なると音が重なり聞き取れなくなるため、一人が発言している間は他の人が発言できない。発言したい人は挙手してファシリテーターに指名されてから話し、話し終わったら「以上です」で締めくくったほうがスムーズだ。一人が長々と話し続けることがないように、「発言は要点をコンパクトに、1分以内で」と決めるのもいい。(編集部・高橋有紀、野村昌二)
※AERA 2020年9月7日号より抜粋
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