寝つきが悪い、寝ても疲れがとれない――。そんな症状に苦しむ「デジタル時差ボケ」がいま、増えている。あなたは大丈夫だろうか? AERA 2020年9月7日号は、自己チェックの仕方と解消法を紹介する。
■目の疲れは脳の疲れ デジタル時差ボケ急増
「非常に寝つきが悪くなりました」
フリーライターの女性(42)は嘆く。
もともと朝型で、夕方6時には仕事を終えるようにしていた。それが、コロナ禍でオンラインでの打ち合わせや取材が増えた。しかも、相手の都合で夜に入れられるようになり、毎晩10時頃までパソコンに向かうように。すると、仕事を終えても、目が冴えてなかなか寝られなくなった。首の後ろや肩など、今までは痛くならなかった箇所が痛くなったともいう。
「寝つきが悪くなったことで、当然寝起きも悪くなりました。また眠りが浅くなってしまったためか、何度も夜中に目が覚めるのも悩みです」(女性)
コロナ禍で睡眠リズムが崩れる人が増えており、「デジタル時差ボケ」として注目を浴びている。
「デジタル機器が発するブルーライトが、体内時計を乱し睡眠トラブルを引き起こしていると考えられます」
眼科専門医で、Y’sサイエンスクリニック広尾(東京)理事長の林田康隆医師は言う。自粛モードでデジタル機器への依存度が増えたことによる、健康被害を危惧している。
ブルーライトは太陽光にも含まれ、「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンの分泌を抑制、覚醒作用があるとされる元来欠かせない光の一成分だ。
しかしデジタル社会に生きる現代人は、四六時中デジタル機器の光を見つめるようになり、毎晩のようにブルーライトを取り込むことで体内時計を乱して睡眠トラブルを起こしていると、林田医師は指摘する。
■目と脳のバランス崩れ
7月、林田医師はメガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックと共同で20代の男女500人を対象に、「デジタル時差ボケチェックシート」を使い「ブルーライトによるデジタル時差ボケが及ぼす、睡眠への悪影響の実態を探る調査」を実施した。すると58.8%もの人が「デジタル時差ボケ」に陥っていることが判明。そのうち95.9%が「寝ても疲れがとれない」、76.5%が「夜中に目が覚める」と回答した。さらに、テレワークをしている人はテレワークをしていない人に比べて、毎日寝落ちしている割合が約2倍になることも明らかになった。
デジタル時差ボケに陥りやすいのは、合計で1日8時間以上デジタルデバイスの画面を見ている人、あるいは90分以上連続で使用している人など。しかし、今やデジタルデバイスは生活の一部。手放すことは難しい。そこで林田医師が勧めるのが、ブルーライトコントロールと、目の運動(眼トレ)だ。
「デジタル機器が発するブルーライトは微弱で安全ですが、これだけ過剰に見つめ続けるのは人類が初めて経験していることです。1日8時間以上スマホやパソコンを使用する人は、ブルーライトカットフィルムを画面に貼る、ブルーライトカット眼鏡をかけるなどの対策をしてほしい」
【「オンライン疲れ」の正体は“脳過労” 脳科学で考える「1日5分」効果的な解消法】
また、目の使い方についてはこうアドバイスする。
「デジタル機器の使用中は、ピントは手元、視線は画面の範囲内、まばたきが極端に減るなど、目の使い方が非常に偏っています。その結果、目と脳の緊張のバランスが大きく崩れているので、これをほぐしてあげることが大切です」
■目の周囲の筋肉ほぐす
そのためには、遠くを眺める、目をギョロギョロ動かす、目を閉じてホットタオルを当てて温めるなどが有効。さらに、目の周りの筋肉をほぐす「グーパーまばたき」、目でゆっくりとペンのキャップを追いかける「ペンさし運動」などは、簡単にできて効果も期待できるという。
「夜間の昼光色は脳を緊張させることもわかっています。ブルーライトだけでなく光を見つめ続ける現代、寝る前くらいはブルーライトを取り込まない方が無難です」(林田医師)
脳科学者で公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授も、目と脳の疲れには密接な関係があるという。
「長時間作業を続けると目がゴロゴロして動きが悪くなったように感じることがありますが、実は、目が疲れたというのは脳が疲れたサインです」
そのまま放置すると脳の疲れは蓄積し、肩凝りのように慢性化するという。そして、目の疲れを取るためにも眼球運動は大切だという。
「疲れたと思ったら、パソコンの四隅をゆっくり目で追うことで注意を分散させてみましょう。注意や集中力にかかわる脳のネットワークが活性化します。また、目を閉じたり開けたりするだけでも脳を休めることができます」
(編集部・野村昌二)
●デジタル時差ボケチェックシート
- 日中、眠いと感じることが多々ある目の痛みや疲れ、乾きなどのトラブルを感じやすい
- 合計1日8時間以上、テレビやPC、スマホなどの画面を見ているPC、スマホなどの電子機器を90分以上連続で使用することが多い
- 紙の本や雑誌ではなく、電子書籍を利用することが多い
- 寝る前にはたいていベッドでスマホを見る
- 起床後、朝日を浴びる習慣がない
- 首や肩が痛い、凝る
- 移動時間や隙間時間はスマホやゲームをしている
- 毎日適度な運動をする習慣がない
★6個以上…デジタル時差ボケ
★4~5個…デジタル時差ボケ予備軍
※AERA 2020年9月7日号より抜粋
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