リーグ戦9試合勝ちなしの状況で臨んだ6月1日の天皇杯JFA第102回全日本サッカー選手権大会2回戦。浦和駒場スタジアムに迎えたのは、J3の福島ユナイテッドFC。
前半は敵陣に押し込みながらも、ゴールの気配をあまり感じない展開。最後の局面を崩せず、バックパスで組み立て直すと、時折スタンドからは大きなため息まで漏れた。
ただ、この日はいつもと違う。嫌な流れを断ち切ったのは、後半から左サイドで高い位置を取り、積極的にゴールを狙っていた明本考浩。0-0で迎えた47分、ペナルティーエリア外の左付近でダヴィド モーベルグのパスを受けると、ワントラップでシュート態勢をつくり、すぐさま得意の左足を一閃。一連の動きには無駄が一切なかった。位置、角度、距離、すべてが練習してきた形だった。
チームのスカウティングでも福島の守備に穴ができるスペースを確認していたという。
「イメージどおりです。コンビネーションのなかでシャドーの位置に入った味方からパスをもらうパターンは練習していました。昨日の練習でもほとんどシュートが入っていたんです。感触がすごくよかったので」
胸がすくような豪快なミドルシュートを振り返る顔には、充実感が漂っていた。
リーグ戦では決定機を生かせず、何度も頭を抱えた。アビスパ福岡戦ではツキにも見放され、ゴール前の絶好機で左足シュートをポストに直撃させていた。
「リーグ戦ではここ数試合、チャンスがあってもなかなか決められず、自分自身、責任を感じていました」
ピッチでは闘志をむき出しにして懸命に戦う姿勢を見せているが、人知れずプレッシャーとも戦っていた。
国内では3月19日のジュビロ磐田戦以来、10試合ぶりの白星。歓喜の拍手に包まれた駒場でヒーローインタビューのマイクを向けられると、思わず相好を崩した。
「ずっと勝てていなかったので、何よりも勝てたことがうれしいです。きょうは何が何でも勝つしかなかった。その気持ちが、あのシュートにも乗ったと思います。ここから変わっていきます。絶対に巻き返していくので、一緒に戦っていきましょう」
ファン・サポーターの前で決意をあらたにした明本の言葉には、力がこもっていた。
ひとつの結果で、リカルド ロドリゲス監督のスタイルが変わることはない。「勝利で自信を得ることができた」と前向きに話しながらも、追加点を奪えなかった反省も口にした。
1-0のスコアには満足していない。苦しんでつかんだ白星をきっかけに浮上するために、リーグ中断期間中も精進していくことを誓った。
(取材・文/杉園昌之)
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