「キャンプから身体が動いている実感はあって、日ごろの練習でも自分らしいプレーはできていると思っていました。それでも、ずっと試合に出場するメンバーに入れなかったので、選ばれるには、もっと自分の何かを変えなければいけない、もしくは自分の何かを変えられたときになるのではないかと、イメージしていました。それだけに、このタイミングでメンバー入りしたことに、待ちわびていた気持ちと驚きの両方を抱きました」
「自分が試合に出たらやれる自信はありました。(興梠)慎三さんが途中出場して前線に入り、右サイドバックはヒロ君(石原広教)だった。特にふたりとは、キャンプでも練習試合でも、一緒にプレーして関係を築けていただけに、なおさらやれる自信はありました。だから、率直な心境としては、『試合に出たい』というよりも、『自分を使ってくれ』という気持ちのほうが強かったかもしれません」
「チームが試合に勝っていたらまた違った感情を抱いたかもしれませんが、0-1で負けていただけに、なおさら試合に出たかったなって。久々にメンバー入りして、やっぱり、自分はあのファン・サポーターの前でプレーしたいし、埼玉スタジアムのピッチに立ちたい。それくらい、ピッチの外になるスタンドから試合を見ているのと、ベンチとはいえ、中から見るのとでは違いを感じました」
「確かにいろいろな経験はできましたし、多くの試合にも出させてもらったと思っています。そうしたいい経験ができたと思う一方で、チームの結果に関わるという意味では、自分の力は出せなかったと思っています。
「昨季までは21歳以下の選手をひとり、先発に含めるという大会のレギュレーションがあったから、自分は試合に出られていたと思っています。決勝戦はそうした規定もあり、先発できましたけど、何もできずに前半を終えて交代した。
「そうした自分への不甲斐なさ、もどかしさは、シーズンを通して、自分の心に突き刺さっていたし、気持ち的にも強く残っていました」
「ここまで試合に出場していた選手、出場していない選手。さらには監督が希望してチームに加わった選手と、それぞれのキャリアを考えると、ユースから昇格した自分は、ゼロからのスタートだろうなと思ってシーズンに臨みました。
「心境としては、開き直るじゃないですけど、むしろ清々しいくらいでした。チーム内で明らかな序列があって、その一番下から自分は這い上がっていかなければならない。だから、落胆することなく、自分はここから頑張ってやってやろうって。
「試合に出場する可能性の高い選手は、どうしても監督の意向に応えようとする姿勢が強くなりますよね。でも、その可能性が低かった自分は、心境としても前向きに自分自身と向き合えていたように、試行錯誤しやすい状況にありました。
「ノブさんが『チームとして必要なときには必要な場所にいてほしいけど、チームのやり方のなかで自分がやりやすいように、思い切ってプレーしてみろ』って言ってくれたことは大きかったですね。だから、チームとしての約束ごとは守りつつ、自分のなかでアレンジしていくことができています」
「(前田)直輝君は、縦にランニングする回数が多く、ドリブルの成功率も高い。ひとりで相手を抜くこともできるし、相手を抜き切らずにクロスを上げる技術はすごいなと思っています。そこは今すぐ、取り入れられるところだと思いますし、直輝君のように自分も何かひとつ武器を作れればと思っています」
「裕葵君は、技術的なところも抜群にうまいのですが、それ以上に、自分がここで前を向いたら、相手がこうなるから、ここが空くといったように、逆算したプレーもうまい。裕葵君に言われた『(スペースがない)狭い状況でも一度、前を向いてみなよ。そのあと無理なら、後ろに戻せばいい』というアドバイスは心に残っています。プレーだけでなく、考え方も含めて、盗み、話せる先輩たちがいる浦和レッズの環境に、ホントに感謝しています」
「ウイングは試合の結果を左右する重要なポジション。ウイングに仕事をさせるために、アンカーやインサイドハーフも動いてくれているとすら感じるので。だからこそ、ウイングの選手には、ラストサードのところでのクオリティーが求められる。シュートや、アシストいった数字につながるプレーは、どこのチームに行っても、どこの国でプレーしても、ウイングに求められることだと思います。
「まだまだ自分は形がないからこそ、先輩や監督から言われたことを吸収しやすい一面もあると思っています。監督から言われたことをすぐに表現しようとするところは、ある意味、自分の特長のひとつだと思っています」
「監督からも、『自分でも感じていると思うけど、成長しているように見える』と言ってもらいました」
「監督は成長していると言ってくれましたけど、本当に成長しているかどうかは、自分ではまだ分かっていないところもあります。練習でできていても、試合でそれができなかったら、成長していることにはならいですからね」
「今、苦しんでいる感覚はそれほどないんです。きっと、試合に出て何もできないほうが苦しさはより感じると思います。現時点では、自分は試合に絡めていないので、練習で判断していくしかない。もちろん、苦しいし、悔しいけど、試合でその苦しさや悔しさを感じられるようになれたらと思います」
(取材・文/原田大輔)