技術もさることながら、気持ちで奪った決勝ゴールだった。
3月21日に行われたWEリーグ第14節、ちふれASエルフェン埼玉とのダービーマッチ。三菱重工浦和レッズレディースは2点のリードを奪うも追いつかれ、2-2で迎えた89分だった。
塩越柚歩が右CKを蹴ると、ファーサイドで安藤梢が折り返す。そのボールに左足で合わせたのが遠藤優だった。
勝ち点3をたぐり寄せる活躍を見せた遠藤が自身のゴールを解説してくれた。
「89分という時間帯で2-2だったので、みんながゴール前に入っていく状況でしたが、本来、私自身はこぼれ球を拾う役割なので、GKの前に入るポジションではなかったんです。
でも、点を決めなければいけないという思いが強すぎて、気がついたらGKの前に入っていました。ゴール自体は(安藤)梢さんがダイレクトでいいボールを送ってくれたので左足で当てるだけでした」
とっさに動いた結果だった。
試合後には、安藤から「ナイス判断だったね」と、称賛の声を掛けられた。
63分に途中出場するときには、森栄次総監督から、こう言われていた。
「前を向いたらとにかくドリブルで仕掛けろ!」
「あとは絶対に点を決めてこい!」
前節のノジマステラ神奈川相模原戦は、前半に奪った2点のリードを生かし切れず、後半に追いつかれてしまった。2-2になった74分に投入された遠藤には、チームを勝たせられなかった悔しさだけが残っていた。
「前節も2-0から追いつかれて、引き分けに終わったことがめちゃめちゃ悔しかったんです。私は最後の15分しか試合に出なかったんですけど、本当に引き分けがもったいない試合でした。首位との差を縮めるには勝ち続けていくしかないだけに、すっごい悔しくて……。
埼玉ダービーでは前節よりも早い時間帯に出場させてもらえたのですが、交代直前に失点して、完全に相手の流れになってしまった。そこから押されて追いつかれてしまって、今日は絶対に引き分けでは終われないと思っていた。その思いがあのゴールにつながったんだと感じています。それ以外の場面でも、積極的にシュートを打っていく意識を見せられたと思っています」
先発こそないものの、ここまでリーグ戦12試合すべてで途中出場している。サッカーはスタメンの11人だけで戦うスポーツではない。途中出場から勝負を決める、もしくは流れを変えるジョーカー(切り札)としての役割を、遠藤は求められている。
「チームの流れが悪くなかったときに投入されることが多いので、森さん(総監督)からはやっぱり前への圧力を求められています。昨季は私自身、交代の一番手ではなく、切り札は梢さんでした。
でも、今季はケガ人の影響もあり、梢さんがスタートから出ているので、繰り上がったというか。そのうえで、すべての試合に途中出場し、2得点という結果を残せていることは、ここまで積み上げてきたものが出せている結果かなと思えています。」
とはいえ、途中から試合に入り、流れに乗るのは決して簡単なことではない。途中出場が多い遠藤はいくつもの工夫と努力を重ねていた。
「そこまで作られてきた試合の流れに一瞬で乗るのは本当に難しいので、自分のなかではまず、ディフェンスから入ることを心掛けています。私自身はサイドハーフなので、例えば相手のサイドバックからボールを奪えたときには、ドリブルも波に乗れるというか。ボールを奪えたことで、この相手には負ける気がしないという感覚を得ることができるんです」
プロになり、時間ができたことで2部練習を行なう日があったり、午後は自分のスキルアップに努めてもいる。
「途中出場して一気にダッシュをすると、乳酸も溜まりやすく、肺活量も一気に上がって体力的にも厳しくなる。そのため、アジリティーと走り込みをしています。アジリティーを強化してきたことで、一度、相手にかわされてもついていけるようになってきました」
守備でリズムをつかむことで、自信を持って攻撃に転じることができる。遠藤に期待されているのは、間違いなくその攻撃にある。
「初速が早いタイプなので、前を向いたら一歩で相手を外せる場面は多いですね。だから、相手と同ラインに並んでいたら、自らボールを運んで、なるべく相手を置き去りにするようなプレーを意識しています。
そのスピードに乗ったドリブルこそが自分の強みではあるんですけど、試合に出たときには、チームにもう一度、活力を与えたい。ディフェンスも、体を張る姿勢も、ゴールにつながるプレーも見せられたらと思っています」
最終ラインを担う南萌華に言われた言葉がうれしかった。
「優が入ったときは、何かをしてくれると思って、いつも後ろから見ているよ」
昨季は無得点に終わったこともあり、今季は3得点を目標にしたが、すでに2得点目をマークし、「3とはいわず5を目指していきたい」と、目標を上方修正した。
「ここからは1試合も落とせない。引き分けも負けに等しいくらいの結果になる。どんな形でもいいので、とにかく点を取って、失点しない。前回、サンフレッチェ広島レジーナと対戦したときは、最後の最後で得点を許し、守備の緩さが露呈してしまった。
しかも、途中出場した選手に決められてしまったんですよね。だから、その反省を生かし、最後の最後まで守備意識を高く持って、あわよくば自分が点を決めるつもりで次の試合に臨みたいと思います」
残り8試合——文字通り落とせない、勝ち点3が求められる試合が続く。
「萌華さんが言ってくれたように、何かを起こせるようなプレーをしたいし、チームに活力を与えられるプレーを見せたい。期待値が高いぶん、その期待に応えられるようにしていければと思います」
現状に満足しているわけではない。当然、スタメン出場も狙っている。ただ、今は三菱重工浦和レッズレディースのジョーカーとして遠藤優がピッチで違いを見せる。何かを起こせる切り札は、チームを勝利に導く。
(取材・文/原田大輔)
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