サガン鳥栖に所属していた昨年11月に右第五中足骨を骨折したため、沖縄でのトレーニングキャンプは最後まで別メニューだった。
全体練習から外れ、ひとり黙々とピッチの周りを走っていた。ボールを蹴ることもほとんどなく、2月12日の川崎フロンターレとのFUJIFILM SUPER CUP2022でもベンチ外だった。
だから、記者席で見ていて驚かずにはいられなかった。京都サンガF.C.との開幕戦のアディショナルタイムにピッチに立つと、4日後のヴィッセル神戸戦以降はスタメンに名を連ねたことに――。
しかも、3バックの一角としても4バックの左サイドバックとしても立ち位置に迷いがなく、まるで昨シーズンから浦和レッズにいたかのように、リカルド ロドリゲス監督の戦術にフィットしていることに――。
「言葉にするのは難しいんですけど、試合中や練習中に、ここに動くと良さそうだなとか、ここに立っていたほうが良いだろうなって思いつくんです。だから、特別何かを意識しているわけではないというか」
画面の向こうの大畑歩夢は、考え込んでそう言った。なるほど、本人のサッカーセンスによる部分も大きいのだろう。
とはいえ、感覚だけに頼っているわけではない。その感覚の源となる作業はしっかり積み上げている。
「キャンプ中は全体練習に加われなかったので、練習やトレーニングマッチで左サイドバックの選手がどんな動きをするのか、どこに立つのか、見ながら勉強していました。
復帰してからも、ポジションが近い選手、たとえば岩尾(憲)選手、江坂(任)選手、小泉(佳穂)選手、関根(貴大)選手、大久保(智明)選手とコミュニケーションをとって、プレーのタイミングやポジショニングについての疑問は練習中に解決するようにしているので、違和感なくやれているのかなって」
サガン鳥栖U-18出身で、鳥栖のトップチームで2年間プレーしたのち、今オフ、レッズにやって来た。プロ3年目の21歳。前述したように、シーズン序盤からコンスタントに試合出場を重ねている。
8月上旬に行われた名古屋グランパスとのYBCルヴァンカップ プレミアムステージ準々決勝では2試合とも先発フル出場を飾り、8月下旬のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022ノックアウトステージでは3試合とも先発出場を果たした。
ここまでの出来は十分、及第点と言っていいだろう。
ところが、大畑は今シーズンの自身の出来に満足していなかった。
「けっこう試合に出させてもらってきたのに、目に見える結果を残せていない。上がるチャンスもありますし、シュートを打てる位置にはいると思うので、そこは今の課題です」
9月3日の鹿島アントラーズ戦でもペナルティエリアの角から侵入し、マイナスのクロスを受けられるポジションでボールを要求したが、味方がゴール前にボールを流し込み、シュートチャンスに恵まれない場面があった。
「いや、それも自分の問題というか。練習でしっかり決めれば、信頼されてパスを出してもらえると思うので、まずは練習からですね」
そしてもうひとつ、出来に納得していない理由がある。
自身のコンディションと疲労の問題である。
「キャンプはリハビリに費やして、体がしっかりできていない状態でシーズンに入ってしまったので、なかなかコンディションが上がらなくて。夏くらいまで体力的に苦しくて、ハーフタイムや後半途中で疲れが出て、足が動かなくなったり、相手に付いていけなくなることが多かった。それが一番の悩みでした」
実際、今シーズンの出場記録を見ると、先発でピッチに立ってもほとんどの試合で途中交代を余儀なくされていることが分かる。
「1対1の守備やビルドアップの関わり、上下動を90分間やり続けることは得意」
かつて大畑は自身の特徴をこんなふうに語った。運動量に自信のある選手が、疲労を理由にハーフタイムで交代させられてしまうのだから、本人のショックは想像にかたくない。
キャンプ中に体を作れなかったことによる弊害は、それだけではない。何度か負傷離脱も繰り返すことになった。
「プロ1年目のとき、試合に出てはどこかを傷めることを繰り返していて。2年目に体のケアに気を遣うようになったら、疲れや怪我もなく連戦をこなせるようになったんです。でも、今年はまた1年目のような感じになってしまって。ただ、1年目と違うのは、朝早くから来てストレッチをしたり、練習のあとも、痛みがあったらすぐにトレーナーに相談して、治療してもらうようにしていることです」
だが、コンディション不良に悩まされていたのも、もう過去の話だ。ルヴァンカップの名古屋戦でフル出場を飾ったあたりから、自身のコンディションの向上を感じている。
「ようやく普通の状態に戻った、という感覚があって。だから、ここからさらに上げていきたいです」
伸び盛りの左サイドバックは自身を進化させることに余念がない。今、意識しているサイドバックの選手も、自分のウイークポイントを強みとする選手たちだ。
「一番の理想は酒井宏樹選手。自分とは身長や体格も違いますが、あの推進力や迫力には憧れます。あと、フロンターレの山根視来選手もよく見ていますね。攻撃で前に入っていくタイミングや3人目としての動きが本当にうまい。
なおかつ点も取れて、アシストも多い。一つひとつの動きを見ると、考えてプレーしていることが感じられるので勉強になりますし、練習で同じようにやってみたりしています」
大畑には今、レッズでのタイトル獲得のほかに、もうひとつ視野に入れている目標がある。
2024年に開催されるパリ五輪への出場だ。2001年生まれの大畑は、パリ五輪代表の最年長世代に当たる。
「絶対に出ないといけない大会だと思っています。今はそこを目指しています。出られなかったら、ショックは相当大きいと思います」
今シーズンの前半戦で見舞われたコンディション不良と負傷は、大畑からパリ五輪代表=U-21日本代表への参加機会を奪っていた。
今年発足したU-21日本代表はこれまで3月上旬の国内合宿、3月下旬のドバイカップU-23、5月半ばの国内合宿、6月のAFC U23アジアカップ2022と、4回の活動を行なってきたが、そのすべてに大畑は招集されていない。
「全部、怪我やコンディション不良で行けなくて。U23アジアカップの試合はほとんど見ましたよ。まずは左サイドバックの選手を見て、その次は純粋に、自分たちの年代の代表選手を見ていました」
大畑が本職とする左サイドバックは、V・ファーレン長崎の加藤聖、湘南ベルマーレの畑大雅、FC東京のバングーナガンデ佳史扶、フォルトゥナ・デュッセルドルフの内野貴史など、タレント揃いで激戦区のポジションだ。
「ライバル心というか、常に意識しています。佳史扶がこの前(8月27日の柏レイソル戦)、点を取っていたので、ちょっと悔しい気持ちもありました」
6月のU-21日本代表の活動を見て刺激を受けた大畑をさらに高ぶらせたのは、言うまでもなく、8月のACLである。
レッズのファン・サポーターが作り出した最高の雰囲気のなかで、アジア最高峰の痺れる国際試合を3ゲーム経験した。
「こんな雰囲気のなかで試合ができて、幸せだなって。とにかく幸せな気持ちでした」
PK戦までもつれ込む激闘となった準決勝の全北現代モータースFC戦では前半、1対1の激しいバトルを制して「いい入りができた」と手応えを掴んだ反面、疲労から集中力が欠けた後半に、自身のタックルによって相手にPKを与えるという、痛恨のミスも犯した。
「届くと思ったんですけど、相手のもらい方もうまかったかなと。自分の判断ミスです。酒井選手から『気を付けるように』と言われていたんですけど……。負けたら自分のせいだと思っていたので、勝ててホッとしました。あのミスを糧にしていかないといけない」
リーグ戦も残り8試合。コンディションが整い、国際経験を積んで心身ともに充実の一途を辿るレフティが欲しているのは、やはり結果だ。
「まず結果を残したい。それに尽きます。ミドルシュートも得意だったんですけど、最近全然打てていないので、狙っていきたい。アシストでもゴールでも結果を残せたら自信になって、そこからさらにプレーも良くなると思う。チームの勝利に少しでも貢献していきたいです」
(取材・文/飯尾篤史)