主な仕事場はタッチラインを背負った左サイド。ボールを受けて、自ら前に運ぶこともあれば、シンプルに前方にパスを出すこともある。
敵味方の立ち位置を把握した上での駆け引き、ボールを受ける位置にも細かく気を配る。
口数は多くないものの、職人ならではの話になると、熱を帯びてくる。
今季、サガン鳥栖から浦和レッズに完全移籍で加入した大畑歩夢は、ビルドアップには一家言もつ。
「ファーストタッチ、ボールの置きどころは意識しています。自分で(相手のマークを)はがして、前の選手に当てられるのが僕の武器です。後ろからのつなぎは、ずっと大事にしてきました」
鳥栖のアカデミー時代から積み重ねてきた技術である。
積極的にチャレンジし、成功と失敗を繰り返してきた。トップチームに昇格して間もない頃は半信半疑でパスを出していた時期もあったが、成功をするたびに自信を深めていった。
「コツコツやることが、うまくなるコツ」
鳥栖U-18の頃に指導を受けた田中智宗監督の言葉は、今も昔も胸に留めている。地道な作業の繰り返し。レッズに移籍しても、大畑のベースが変わることはない。
今季はリーグ戦7試合を消化し、左サイドバックとして5試合に先発出場。持ち味である攻撃の組み立てには手応えを感じている。
ただ、出場時間は6試合(途中出場含む)で285分。フル出場は1試合もない。
昨年11月に右第五中足骨を骨折し、今年1月のキャンプから出遅れた影響は否めないが、本人は現状に歯がゆさも感じていた。
「出場時間が短いですよね。シーズン序盤は万全のコンディションではなくて……。守備のリアクションで思うように体が動かないこともありました。90分間、上下動する体力、守備の強度も足りていなかったと思います。でも、いまはほぼ100%に近いです。中断明けからはもっとアピールしていきます」
元来、スタミナには自信を持っている。鳥栖のアカデミー時代から鍛えられてきた。
試合を重ねて、レッズでも持ち前の走力を生かす術を見いだしつつある。アレクサンダー ショルツのパスを出すタイミングとボールの持ち運び方をつかみ、同サイドの関根貴大、トップ下の江坂任とのコンビネーションも深まってきた。
3月6日の湘南ベルマーレ戦では、左サイドの好連係から初アシストを記録。ショルツからトップ下の江坂にくさびのパスが入った瞬間、裏のスペースに飛び出した。
「あの場所に出してくれるなと思いました。任くんの声が聞こえましたし、状況を見極めて、マイナスに折り返すこともできました。プロ3年目は目に見える結果を残したいと思っています。
シーズンの早い段階に1アシストできことはよかったです。でも、まだまだ足りないので、ここから積み上げていきます」
鳥栖時代に威圧感を感じていた埼玉スタジアムの雰囲気にも慣れてきた。
ホーム開幕のヴィッセル神戸戦(2月23日)では見慣れないと感じた光景が、ガンバ大阪戦(2月26日)からはしっくりきた。
気がつけば、ファン・サポーターの思いのこもった手拍子と拍手に背中を押されていた。
ふと昔を思い返すと、不思議な感覚に陥る。中学校時代には、熱気あふれるレッズの応援に惹かれ、友人たちと一緒に『We are REDS!!』と叫びながらサッカーをしたことがあるのだ。『赤き血のイレブン』もお気に入りだった。
「映像で見て、すごかったので、マネをしていました。中学生当時、サッカー仲間の中で応援歌を歌うのが流行っていたことがあり、みんなでレッズのチャントを歌って、盛り上がっていたんです。
実際に埼スタのピッチであれを聞いたら、鳥肌が立つと思います。僕はそもそもプロになってからまだ一度も声援を聞いたことがないので……」
鳥栖のアカデミー時代にベストアメニティスタジアム(現・駅前不動産スタジアム)で受けた衝撃も忘れられない。
真っ赤なユニホームを着た軍団がスタンドの一角を埋め尽くし、大きな応援歌を会場中に響かせていた。
「日本で一番熱いなと思いました。まさか、その数年後に、僕がレッズの一員となり、あのファン・サポーターから応援してもらえるようになるとは思わなかったです」
大畑は駆け足でプロキャリアを駆け上がっている。約7カ月前、酒井宏樹とマッチアップすることに心を踊らせていたのが嘘のようである。
昨季はフランスのマルセイユからJリーグに復帰したばかりの現役日本代表に胸を借りる思いでぶつかったが、今季はチームメイトとなり、体の使い方などを間近で見て学んでいるのだ。
レッズに加入してはや4カ月。エンブレムの重みをひしひしと感じている。
目下の目標は16年ぶりとなるリーグ優勝に貢献し、自身初のタイトルを勝ち取ること。すでに主力としての自覚もある。4月からの巻き返しに意欲をたぎらせる。
「チーム全員が同じ目標に向かっています。試合に出る選手が、出ない選手の分まで、『浦和の責任』を持って、1試合1試合、全力で戦えば、結果は自ずとついてくるはずです。まずは目の前の北海道コンサドーレ札幌戦(4月2日)に全力を尽くします」
実直な20歳には貫いてきた信念がある。
一度、自分で決めたことは絶対にやり遂げる――。
(取材・文/杉園昌之)
外部リンク