ときに低空のライナーのこともあれば、相手の頭上を越す山なりの軌道を描くこともある。
当たり前のように味方の胸、足にピタリと届くGK西川周作のパントキックにもはや驚く人は少ないかもしれないが、今季はビルドアップのクオリティまでひと味違う。
ハイプレス全盛の昨今、GKにも強烈なプレッシャーをかけてくるチームが増えている。
J1リーグ開幕戦のFC東京、2節の横浜F・マリノスもそうだった。
浦和レッズ全体を見れば、圧力に屈して、苦し紛れのパスを出すことはあったかもしれないが、足もとの技術に絶対の自信を持つ守護神は違った。
プレスの網にかかりやすい近距離の味方にパスを出すのではなく、山をひとつもふたつも飛び越えて、右に左にミドルパス、ロングパスをぽんぽんと通している。
横浜FM戦でも圧巻のキックで好機を演出。13分、バックパスを受けると、すぐさま相手最終ラインの裏に走り込んだ酒井宏樹へ鋭いボールを送っていた。危険回避のためにただ大きく蹴り出しているわけではない。すべて狙いを持っている。
「相手のハイプレスにビビらないメンタリティが大事。ボールを受ける前に周りをしっかり見ています。まずは奥をのぞき、その次に近いところ。昨シーズンまでとは、視点の優先順位が変わりました。いまのほうが、自分の持ち味をより生かせていると思います。これからも相手の嫌がることを続けていきたい」
キック精度のみならず、パスを出すタイミングとセンスは、フィールドプレーヤー顔負け。スペイン人のジョアン・ミレッGKコーチのもと、セービング技術のみならず、ビルドアップ力も向上させている。
今年6月で37歳を迎えるが、自らの成長に対して、どこまでもどん欲。2試合連続で2失点を喫し、反省すべき点はあるものの、下を向くことはない。練習場ではたっぷりと汗を流し、明るい表情を見せながらトレーニングに打ち込んでいる。
「今すごく充実感があるんです。(ビルドアップの)リスクも楽しんでいるので。たとえボールを取られたとしても、どのように守るかを考えて、ジョアンのもとで練習しています。守備の落ち着きが、攻撃の落ち着きにつながっているのかなと。まだまだ頑張りますよ」
レッズでのJ1通算出場数は、歴代7位の303試合。今季中にも6位の柏木陽介(311試合)、5位の槙野智章(313試合)を抜く可能性もある。
パリ五輪世代の鈴木彩艶らの突き上げはあるものの、今季も失敗を恐れぬ、攻めの姿勢を貫いて、ゴールマウスに立ち続ける。
(取材・文/杉園昌之)
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