今シーズンの浦和レッズのファン・サポーターほど、Jリーグの選手層の厚さを実感している者はいないはずだ。
小泉佳穂がFC琉球から、明本考浩が栃木SCから加入したとき、チームにとってこんなにも欠かせない選手になることを、誰が想像できただろう。
J2にこんな選手がいたのか――。
そう驚かされたばかりだったのに、8月に水戸ホーリーホックから加入した平野佑一も、まるで何シーズンも中心選手としてプレーしてきたかのような存在感を見せている。
8月14日のJ1リーグ第24節のサガン鳥栖戦でさっそくボランチの一角として起用された平野は、リカルド ロドリゲス監督の信頼をがっちりと掴んだ。
それ以降、ほとんどの試合でスタメン起用され、ボランチのコンビを組む柴戸海との息は、「いい関係が築けている」と自身も語るように、試合を重ねるごとに醸成されてきた。
チームの頭脳になり得る選手――。
リカルド ロドリゲス監督の平野評が、決して大袈裟ではないことは、ピッチの上を観察していれば分かるだろう。
ディフェンスラインにスッと下がってビルドアップを助け、自身の立ち位置ひとつで相手選手を思いのままに動かす。
技術もあることながら、頻繁に首を振って周囲の状況を確認しているから、敵の急所を次々とワンタッチパスで突く。
10月27日に行われた天皇杯準々決勝のガンバ大阪戦でも堂々たるプレーを見せた。
テンポ良くボールを散らしたかを思えば、スローダウンして攻撃を落ち着かせる。
6分には絶妙なロビングパスを江坂任に送って決定機を演出すると、9分には相手GKのゴールキックのこぼれ球を左足のワンタッチパスで相手ディフェンスラインの裏に送る。これがキャスパー ユンカーに渡り、先制ゴールにつながった。
「正直、キャスパーのことは見えていませんでした。ただ、3人目の動き、サイドバックからもらったボールをワンタッチで縦に入れるイメージはずっと持っていました」
G大阪とは10月16日のJ1リーグ第32節でも対戦している。このときは相手を圧倒し、90+1分に先制しながら、直後に追いつかれるという失態を犯してしまった。
それゆえ平野は「今日は展開がどうであれ、自分の色を出すというより守備重視というか、絶対に失点しないことを意識しました」と明かした。
それでも先制点をもたらす決定的な仕事をこなしたあたりに、ポテンシャルの高さが窺える。
リーグ戦次節の対戦相手である川崎フロンターレは、平野にとってJ1で戦っていくうえでの自信を与えてくれたチームである。
9月1日と5日に行われたYBCルヴァンカップ準々決勝で、得意のフリックパスを連発し、J1王者の中盤を混乱させることに成功した。
「フロンターレ相手に自分のサッカーがある程度通用した。それまでも自分の色を出そうと思っていたんですけど、本当の落ち着きを出せたのはあの2試合。そこからは自分のストロングを披露できているのかなと思います」
実はルヴァンカップで川崎と対戦する前、平野は「守備に奔走させられて、自分のウイークが晒されると嫌だな」とネガティブな気持ちを抱いていた。
しかし、今の心境は真逆なはずだ。
川崎との対戦に向けて、レッズの新レジスタ(イタリア語で演出家の意味)はきっとワクワクしているに違いない。
(取材/文・飯尾篤史)
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