スタートリストに名を連ねたことに、さしたる驚きを覚えない――。そんな状況が、今シーズンの彼の立ち位置を如実に表している。
浦和レッズユース所属の17歳、早川隼平が8月6日の横浜F・マリノス戦で記念すべきJ1リーグ初先発を果たした。
YBCルヴァンカップでの2試合の先発出場を含め、ここまでの公式戦出場はすでに11試合。そのため、横浜FMとの大一番でも違和感なく、スムーズにゲームに入った。
最初の大仕事は5分、左サイドで相手に囲まれながらボールをキープし、内側を駆け上がった荻原拓也に絶妙なスルーパスを通して決定機を演出した。
「あそこにはいつも拓也くんが走ってくれます。タイミングよく相手と入れ替わってチャンスになりました」
続いて30分には相手スローインの流れからアレクサンダー ショルツ、伊藤敦樹、大久保智明、安居海渡、ホセ カンテと繋ぎ、伊藤がワンタッチでゴール前に流し込む。
そこに早川が飛び込んできたが、わずかに合わず、一瞬スピードを落としてしまう。
そのシーンについて試合後、こんな言葉をかけられたという。
「あそこで諦めるのは早くない?」
苦言を呈したのは、出し手の伊藤である。たしかに、早川がスピードダウンするタイミングが少し早かったように見える。思い切って飛び込んでいれば、何かが起きていたかもしれない。
「あのシーンは自分が止まってしまって。敦樹くんが前にパスを入れてっていうところで、自分はGKと近づきすぎてコースがなくなるのが怖くて止まったんですけど、そういうところももっと突き詰めていきたいです」
若きアタッカーは、ハーフタイムを迎えたところで関根貴大と交代になった。45分間のプレーは予定どおりだったようだが、もちろん、それで満足してはいない。
「自分のプレー次第ではもう少し長くプレーできたかもしれないので、もっと長く使われるプレーヤーにならないといけない」
ベンチでゲームを見守ったあとは、ベルギー1部のシント=トロイデンVVに加入する育成組織の先輩、鈴木彩艶のスピーチの様子を見つめた。
「彩艶くんからは、ロッカールームで『ああいう場でちゃんと話せるようになれよ』と言われました。自分はジュニアユースから入ったので一緒に過ごした時間は少しでしたが、アカデミー時代から態度や振る舞いが他の人とは違うところがあったなと思います。練習場に来る早さ、自分の準備に費やす時間を取るところは、学ぶことが多かったです」
記念すべきリーグ初先発は、ほろ苦くも、多くの収穫も得た。そして、旅立つ先輩の姿に、未来の自分を重ねる夜になったはずだ。
プロ契約締結が発表されたのは、その4日後の10日のこと。プロサッカー選手となった17歳が新たに踏み出す大きな一歩に注目したい。
(取材・文/飯尾篤史)
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