連戦でも落ちることのないパワーの源は「お米」にあるのかもしれない。
岩波拓也に、自身が語れるくらいハマっているものはあるかと聞いた。
すると彼は「ゴルフか、ゲーム……あとは……」と、つぶやく。
ざっくりとした質問を投げておきながら失礼だが、やはり趣味の話題がくるのだろうと構えていた。
ところが、次の言葉は予想を大きく裏切るものだった。もちろん、いい意味で。
「最近、お米を炊くのにハマっています」
お・こ・め?
予想外のワードに、こちらがやや前のめりになって食いつくと、岩波は続けた。
「それも炊飯器ではなく、土鍋で炊くのにハマっています」
きっかけは、チームメートである平野佑一と行った食事がきっかけだったという。
「そのお店のご飯が本当に美味しくて。肉や魚といったおかずではなく、とにかくご飯、白米が美味しかったんです。炊き方によってこんなにも違うものなのかと感じて、そこから調べて自分も土鍋で炊くようになりました」
YouTubeで土鍋での白米の炊き方を調べると、さまざまな調理法があることを知った。水加減や火加減もさることながら、目に留まったのは思わず緻密と表現したくなる下準備だった。
「土鍋に火をつけてお米を炊くのは、時間にして30分程度ですけど、その前の作業に1時間〜2時間くらい掛けるんです。例えばですけど、お米を水で洗ったあと、水につけて冷蔵庫に入れ、水分を含ませておくんです。
そのあと、冷蔵庫から取り出して、水を切ってお米を休ませる。水から一度、出して、乾かす作業。これが実は重要らしいんですよ。だから、お米を炊くのは本当に最後の作業。どちらかというと、それまでの工程が大事だということを知りました」
まるで自身のプレーを解説するかのように淡々と語る岩波の姿に、まばたきした。下準備=日々の練習、炊く作業=試合とでも言わんばかり。さしずめ、食事=勝利の歓喜とでも言えばいいだろうか。
「だから、マジで時間が掛かるんですよ。工程が多いので、きっと日々料理をしている人は、お米を炊くのにわざわざそこまで時間を掛けないだろうなって思います。
僕は料理がまったくできないので、興味本位でお米を炊くくらいなのが合っているのかもしれません。でも、自分なりにいろいろと研究して、どうやったら美味しく炊けるのかを調べたり、試したりするのも楽しいんですよね」
最近は、白米を炊くための土鍋を新調しようと考えているそうだ。工程にこだわるのであれば、使うものによって、また違いが出るのではないかと言う。
SNSでその様子を更新すれば、ヴィッセル神戸時代のチームメートだった紀氏隆秀が「美味しいお米があるから」と、誕生日のお祝いを兼ねて、お米を送ってくれたという。
「そのお米を土鍋で炊いて食べるのが今から楽しみなんですよね」
そこまでの工程と時間を掛けて炊きあがった白米は違うのかと聞いた。岩波は一拍ためてから、満面の笑みで言った。
「……めっちゃ、美味しいです! 違うのがわかりますよ。ツヤツヤしてますから」
細部に魂は宿る。終わりもサッカーにこじつけようかと思ったがやめた。
ただ、岩波の緻密な守備やキック、さらには空中戦や競り合いで見せるパワーの秘密は「お米」にあるのかもしれない。
(取材・文/原田大輔)
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