いつだったか、酒井宏樹が明本考浩に言った。
「サイドバックが(ゴールを)決められるチームは強くなる」
同じサイドバックとして認めているということともに、自分たちが勝利をたぐり寄せられる存在だということを伝えたかったのだろう。
3月18日に行われたJ1リーグ第5節のアルビレックス新潟戦は、その言葉を体現するかのような試合になった。
口火を切ったのは右の酒井だった。
0-1のビハインドで迎えた35分、ゴール前の混戦から大久保智明が身体を張って落としたボールに、酒井が右足を一閃する。それは「突き刺さる」と形容したくなる豪快な同点ゴールだった。
酒井が言う。
「入ってよかったなと思っています。ただ、あれは試合を振り出しに戻すきっかけ。そのきっかけになれたことはよかった」
逆転弾はそれから約10分後、前半のアディショナルタイムに生まれた。
続いたのは左の明本だった。
岩尾憲が右コーナーキックをファーに蹴ると、相手DFがクリアする。ニアにこぼれた浮き球に素早く詰めた明本が、左足でジャンピングボレーを繰り出した。それは「鮮やか」と形容したくなる圧巻の逆転ゴールだった。
明本が言う。
「こぼれて来るのは分かっていました。(素早く)落下地点に入るのは自分の得意分野だと思っていますし、そこでうまく合わせられたことがよかった。(シュートは)身体が勝手に動いたというか、本能という感じです。丈夫な身体に生んでくれた親に感謝したい」
ホームの浦和駒場スタジアムで新潟に2-1と逆転勝利した浦和レッズは、リーグ戦3連勝を飾った。主役となったのは両サイドバックふたりだが、殊勲は得点シーンだけに限らない。
実際、酒井が決めた先制点も、左サイドから攻撃は始まっている。マリウス ホイブラーテンからの縦パスを、左サイドのスペースで受けた明本が引っ張り、小泉を経由して右サイドへと展開。そこからテンポアップしたことでゴールへとつながった。
明本が自身の役割について言及する。
「サイドバックとしては、まずは相手にやられないことが大前提ですが、攻撃では宏樹くんのストロングポイントを活かすために、左サイドで攻撃を作り、右に展開しなければいけないと思っています。
その準備は常にしていますし、そこを意識しながらも(相手の)背後に抜ける動きなど、プレーを工夫しています。何より、自分は宏樹くん、宏樹くんは自分と、お互いが逆サイドを常に見ながらプレーしていると感じています」
DFというポジションらしく、大前提に守備を挙げたように、新潟戦では両サイドバックともに守備でも魅せた。相手が反撃を試みてきた後半、シュートを3本に抑えたように、付け入るスキを与えなかった。
酒井が守備について語る。
「今日(新潟戦)は、アキ(明本)と僕、特にアキの守備でのパフォーマンスがよかった。ゴールに目がいきがちですが、ほとんどの場面で、僕もアキもサイドではうまく防げていた。逆に相手が真ん中を使ってきたときにはふたりの外国籍センターバックがいる。だから、ゴール前という局面で、相手を近づけさせることがなかった」
守ってもよし、攻めてもよし。お互いに活かし合うことで相乗効果が生まれている。まさに最高の、最強のふたりと言えるだろう。
改めて冒頭の言葉を噛みしめつつ、そこにプラスアルファを付け加えたい。
両サイドバックが守備でも、攻撃でも牽引するチームは強い。
(取材・文/原田大輔)
外部リンク